テニスラケットの科学(360) :テニスラケットの科学(86)のQ&A

テニスラケットの科学(86) テニス・スイングにおけるパラメトリック加速(1):フェデラーのサーブ (Parametric Acceleration in Tennis Swing: Federer’s Service)
● Q1 from Sさん
: すいません。ちょっと理解出来ません。
●A1: ラケット・ヘッドが下から上に振りあがるときに、ボールに縦回転(トップスピン)がかかりますが(ストロークの場合と同じです)、しばしば、指導書では、腕の動きとラケットの動きを混同して、サーブは、腕を振り上げる、あるいは下から上に打つという記述が見られます。
 しかし、一般に上級者は、腕を振り下ろしてヘッドが振り上がるときにインパクトをしているということです。
 これは、我々でも実感できると思います。
●Q2 from Sさん
: ラケット面の動きだけに注意して振っているので、腕に意識が無いので、やはり理解出来ません。
  今度、意識して観察してみます。
●A2: 
 たしかにコマ数が粗いので、わかりにくいですね!
 肩・上腕に注目すると、図の16ですでに腕はほぼ垂直の位置にあります。
 17,18では投球動作のように腕を振り下ろし始めています。
 正確に言うと、18はインパクト直前で、この直後に、ラケット面が右側(紙面では左側)に振りあがることにより縦回転がかかります。
 18と19の間に5コマくらいあると、わかりやすいのですけどね! 
 こんど、フェデラー選手のサーブの詳細分解写真の掲載を考えてみます! 
 (蛇足:今、脊柱管狭窄症と右股関節炎症で歩行困難になり、リハビリに忙しい毎日を過ごしています!)
●Q3 from Nさん
:腕の長さによるブレーキが掛かり、手首をラケットが追い越して行く瞬間に、そのラケットヘッドが急速に上がるのと引き換えに腕を振り下ろす様に見える様な気がします。
●A3:
 コメントありがとうございます。
 この場合は、手首をラケットが追い越さないうちに、腕を振り下ろしているように見えます!
 テレビなどの試合の映像を見ていると、やはり、エイッという感じで腕を振り下ろしているように見えます?
 インパクトまでは、肘も手首も、回旋や回内・回外は使いますが、角度はあまり変えていないように見えます?
●Q4 from Nさん
:いわゆる手を洗った時に手の水を払う動作を上に向かってする様な感じで、手首の移動のための加速度の最大化を私自身は感じることが出来たので、その感覚がベースになってます。
●A4
:「いわゆる手を洗った時に手の水を払う動作を(肩を使って)上から下に向かってする様な感じ」というのはどうでしょうか?
●Q5 from Nさん
:打球時に腰から上はネット方向に折れて、肩、肘、手首の関節は一直線になると考えています。
 振り下ろすというか、腕の長さのブレーキがかかって、落ちてくるということでしょうか。
 上からボールを押さえ込む打ち方は考えにくいのですが。
 シモンの打球時の写真です。
 こんなイメージです。
●A5
:コメント、シモンの打球時の写真、ありがとうございます。
 勉強になります!
 この写真は、インパクトした後の写真だろうと思います。
 この写真だけでも、腕は振り上げられているのではなく、振り降ろされていると思います。
 おそらく、インパクト前、腕がほぼ垂直に上がっている状態(肩から手首までほぼ一直線)では、ラケット先端はまだ水平か下方を向いていると思います。
 この状態から、肩甲骨・肩・上腕に着目するとわかりやすいのですが、肩甲骨・肩・上腕を回旋しながらラケットを投げるような感じで振り降ろし、ラケット面が振り上がって、インパクトした瞬間に、中屋さんのおっしゃるように、「いわゆる手を洗った時に手の水を払う動作を上に向かってする様な感じ(上ではなく、下に投げる感じ?でラケットをなげるとラケットは舞い上がる?)」もあるかもしれませんが、手打ちではエネルギ不足なので、肩を十分使ってラケットを投げるという動作があってからの動きかと思います。
 たとえば、下記のスロー映像を、インパクト前、インパクト、インパクト後にストップして、肩甲骨・肩・上腕に着目してみていただけるとわかりやすいかと思います。
 プレーヤー、あるいはフラットサーブ、スピンサーブ、スライス気味のフラットサーブなどによって、また、グリップの厚さなどによって少し異なると思います。

●Q6 from Nさん
:解説ありがとうございます。
頂いたキリオスのYoutubeの動画を確認したのですが、インパクトのところのコマ数が足りなくて確認できなかったので、手持ちの動画を確認して、インパクトの部分を「直前」、「インパクト」、「直後」、「フォロースルー」に分けて動画編集してみました。
7人の選手のサーブを取り上げ「肩甲骨・肩・上腕を回旋しながらラケットを投げるような感じで振り降ろし」を検証したのですが、動画中の「フォロースルー」の段階で「振り降ろし」が始まるのではと思いました。
 やはり、川副さんのおっしゃる「振り降ろされている」というところが、どうにも確認出来なかったので、「振り降ろす」という言葉の意味について、私の理解が違うのではないのかと思い、確認なのですが、私の理解する「振り降ろす」とは、体側より肘、手首の関節が前方に出ることをイメージしています。
 つまり、腰、肩、肘、手首が一直線になった後にラケットヘッドが鋭く振り上がり、インパクトを迎え、腕の振り降ろし、つまり、体側の線より肘又は手首が前方に出ることになると考えます。
 川副さんのおっしゃる「腕を振り下ろしてヘッドが振り上がるときにインパクトをしている」だと、私の定義する「腕の振り降ろし」と違う気がします。
 興味深いテーマなので、もう少し検証を続けてみます。
●A6
:詳細なコメント、映像、ご議論、ありがとうございます。
 「振る」という定義が異なるようですね!
 やはり、どの選手も、おそらくグリップの厚さの加減とフラット気味かスピンかなどによって打点が微妙に違うかもしれませんが、インパクト直前(このタイミングが重要だと思います!)からすでに肩を中心にして腕を振り降ろして(円運動?)ボールを叩きこむというイメージですね!
 メデイアでは、野球などで、イメージ的にしばしば、ボールを投げた瞬間に肘から先を「振る」と表現するようですが(?)、ボールを投げたり、腕とラケットを振るエネルギー源は、肩甲骨・肩・上腕が基本だと思います(グランドストロークも)。
 サーブにおいて腕とラケットを下から上に振るという動作は、(腕とラケットの重量が重いから)力(回転トルク)を出しにくく、スピードも出ません。
 腕とラケットを上に担いだ状態から、肩を中心に腕を上から下に振ると、ラケットは上に飛んでいくかのように動くかと思います(遠心力)。
 上腕を上から下に振っても、ラケットとボールはネットの上方に飛び出しながら、ラケット面の角度(差し込み方?)でスピンがかかり、トップスピンによってボールは急下降し、サービスエリアに収まるのではないでしょうか!
●Q7 from Nさん
:>肩を中心に腕を上から下に振ると、ラケットは上に飛んでいくかのように動くかと思います(遠心力)。
→なるほど。昔の遊びの「メンコ」のイメージですかね。
 それならわかりますね。
 この私のレッスン動画では、その辺をテーマにしていたのですが、どうでしょう。

●A7
:興味深い映像とご議論、ありがとうございます!
 「勝者のフットワーク塾」は、昔?、大変興味があってご指導いただきたいと思っていましたが、仕事(テニスラケットの研究?)で忙しくて、残念ながら、テニスをやる暇がありませんでした!
 中屋さんは、明らかに、肩甲骨・肩・上腕を使って、上腕とラケットが上にあがった位置から、振り降ろして、強いサーブを打っておられますね!
 極端な例かもしれませんが、イメージは、トルクの小さな電気モーター(肩に相当?)を重い棒の一端に取り付けて、モーターで倒立棒を(鉄棒の大車輪のように)ぐるぐる回転させると、棒が最高位置から降りていくときは加速しながら速く回転しますが、下から上がっていくときは減速して速度がでませんね。
 私見ですが、テニスの上手なコーチは沢山おられますが、自分がどのように身体とラケットを操作しているかを説明できるコーチは少ないような気がします?  
 自分の動作でも、スロー映像などで見ないとわからないですね?
●Q8 from Nさん
:「勝者のフットワーク塾」の取り組みをご存じとは光栄です。
 動作が出来ることと、その動作を説明出来ることは別物なのでしょうね。
 コーチのすべきことは、①やってみせる、②説明してみせる、③出来させる、この3点は必須なのだろうと考えています。
 さて、議論に戻ります。
 鉄棒の大車輪の例、よくわかります。
 回転運動で考えると振り降ろすところで加速すると思います。
 もう1つの視点として、回転運動によって直線的スイング軌道を導き出しているのではとも思います。
 私がオーストラリアでコーチをしていた時、サーブ練習に陸上のやり投げのトレーニングをしているプロの選手を見ました。
 確かにスイング動作のもとは、回転運動だと思うのですが、回転運動から派生する直線的な力のベクトルもあるのではと考えています。
 以前に合宿のミーテイングで使ったパワポのアニメションをビデオ化した動画を参考に添付します。
 川副さんの「振り降ろす」とは、この回転運動を説明したものだろうと理解しました。
 実際にサーブを打つ時は、回転運動から派生する直線的な手首の軌道の方のイメージが強いのではないだろうかと感じています。
 何度も恐縮です。
 興味深いお話しありがとうございます。
●A8
:有意義な議論、ありがとうございます。
力学的なポイントをよく理解されていると思います。
 分かりやすいように円運動と言っていますが、正確には、旋回運動(半径が変化する)です。
身体の構造上、厳密には、円運動はありえません。
 旋回運動は、自動車の旋回をイメージするとわかりやすいと思いますが、旋回半径が非常に大きいと曲線が直線に近くなります。
 やり投げは、遠くへ投げますから(初速を出さないと遠くへ飛ばない)、テークバックを大きく取って、肩を使って、旋回半径を大きく取って、槍を下方から持ち上げて、トップ(最高位置)になった瞬間に、上から下に投げる動作をすると、遠心運動で、槍は高く、かつ前方へ、遠く、飛んでいくのではないでしょうか。
 「コーチのすべきことは、①やってみせる、②説明してみせる、③出来させる、この3点は必須なのだろうと考えています。」   嬉しい限りです!
 ②、③の順で難しいことですが、プロであれば、期待されることでしょうね!
●Q9 from Nさん
:様々な角度からご示唆頂きありがとうございます。
 川副さんのfacebookに板橋区在住とありますが、私も板橋区在住ですので、いつか直接、お話を伺うチャンスがあればと思います。
 今後とも宜しくお願い致します。
●A9:私も大変勉強になりました。ありがとうございました。
 ラケットの話をしだしたら、時間を忘れて、何百時間?でも話せるという時期がありましたが、今や、後期高齢者に突入して仕事がはかどらず、おまけに、首のヘルニアを克服したと思ったら、脊柱管狭窄症と股関節の慢性的炎症で右脚の痛みが重症化して、現在、リハビリ中で、時間がいくらあっても足りない状態です。
 10年前でしたら、喜んでお話ししたいところですが、何人かの方からも同じようなお誘いを受けながら対応できない状態です。
 ラケットやストリング、ボールなどに関しては、実証実験結果や物理法則と矛盾するような(ライターの想像による)解説がテニス書やテニス雑誌にあふれているので、できるだけ時間をみつけて、このフェイスブックでも、過去の研究結果の解説や新しい知見を、少しでも、紹介させていただこうと思っています。今後もよろしくお願いします。
●Q10 from Yさん
: これは肘を振り下げることによりテコでラケットが振り上がるということでしょうか?
●A10
:ご質問、ありがとうございます。
 ラケットヘッド速度を出すという意味では、「動きを拡大する」装置としての「てこ」の利用と考えることができますね! 
 サービスの場合を簡単に考えると、肘や手首の角度を一定にして、肩を「支点」にして肩に回転トルク(力点)を与えて「腕とラケット」を振る回転運動とみなすことができますから、肩(支点)にトルク(力点)を加えると回転角速度はゼロから加速しますが、肩の回転角速度は小さくても、支点から遠い作用点のラケットヘッドの速度は拡大されて加速されます。
ただし、実際は、回旋などを含みますからもっと複雑です。
 重要なのは、
 肩に回転トルクを与える際に、振り上げるのと、振り下げるのでは、加速のしかたが大きく異なります。
 腕(3キログラム)とラケット(300グラム)の重量を振り下ろしながらトルクを出す方が、3キロ以上の重量を振り上げながらトルクを出すよりは、はるかに速く腕とラケットを振ることができるはずです。
 これはスピードだけの話ですが、さらに(トップ)スピンの量を増すには、ストロークの場合と同じようにストリング面の「縦糸」が、ボールに対して下から上へと振りあがる必要があります(インパクトの一瞬だけ縦糸の方向が水平に近くなる。ストリング面の縦糸方向が水平に近くなる。実際はやや斜め?)。
 ストロークの場合のトップスピンの生成原理と同じです。
 ストリング面はボールの勢いを縦糸と横糸で支えますが、ストリング・テンションは縦糸の方が横糸より高くなっていて、同じ量だけたわみます(変形)から(並列バネの原理によって)、主に縦糸が支えることになります。
 ストリング面が、トップ側が下がっている状態から次第に上がって水平に近くなって、さらに、トップ側が上方向になるような軌道になりますが、その途中でインパクトになります。
 フラットの時は、ラケットが立っている状態に近く、トップスピンの場合は水平に近く、スライスの場合は斜めの状態の時にインパクトになるように見えます。
 柳内さんは、このような打ち方をしていると思いますので、上記の説明がイメージできると思いますが、この部分は、コマ写真にないのでわかりにくいと思います。
 テレビでプロのサーブを注意深く見ると、やはり、思いっきり肩を回転させて、腕を高い位置から振り下ろしてインパクトしていますね! 
 スピードがでるからスピン量も多く、ラケット面が振り上がる所でインパクトになっていますが、スピンがかかっているので、ボールは急降下してサービスエリアの深いところに入りますね!
 とりあえずの回答です。
 フェデラー選手のフォアハンドは一応探求したので、次は(そのうち?)、フェデラー選手のサーブについても探求してみようと思っています!
Q11
:専門的な見知ありがとうございます。
フェデラーのサーブは切り替えし16と17で、肘がグッと前に出てきて、アメフト のボール投げと同じように、プロネーションが効いてるかと。
自宅でタオルの先を結んで、実験で肘を前に出して振り下げてみたら、かなりタオルがブルっと回りましたから、たぶんご指摘は当たりかと!