テニスラケットの科学(500) (備忘録) テンションとプレイのマッチング 1995年版(15): Part5  テンションの秘密を科学で探る 実験結果と実際のスウィングの印象の間で、 ギャップはなぜ 起こるのか ⑪

(10) 実験結果と印象とでギャップが起こる原因はさまざま
“ テンションとボールの反発に関して、実験結果と実際のスウィングでの印象が異なる理由は何かというテーマであるが、従来の実験結果も本質をとらえていないようであるし、プレイヤーの感覚にも個人差があるように思われる。
 実際のスウィングで、緩いテンションのほうがボールの飛びが良いとすれば、オフセンターでの話であることが考えられる。
 もし、ストリングスを強めに張った場合、センターでも反発が悪いとしたら、ラケットの設計に問題があることも考えられる。
 このときはストリング・ダンパー(補足:振動止めのこと)が効果がある(*1)。
(*1 補足
:この場合は、設計不良のために、ストリング面の膜振動とラケット・フレームの3節曲げの固有振動数が近いための共振なので、振動止めでストリング面の振動を抑えると、ラケット・フレームの3節曲げ振動もおさまります。
 一般に、振動止めはストリング面の膜振動の制振には効果がありますが、フレーム振動の制振には効果がありません。しかし、このような共振の場合は、めったにありませんが、振動止めは有効です。
なお、フレーム振動は、2節曲げ振動が主要で、3節曲げ振動は小さく、無視できます。)
 ストリングを緩く張ると飛びすぎるという印象に対しては、ストリングスの変形が大きいためにコントロールがむずかしいというだけで、打球が速いとはかぎらないかもしれない。
 また、ストリングスの変形が大きいためにスピンがかかりにくいとしたら、コントロールもむずかしくなるし、飛距離も長くなるだろう。
 コントロールに問題がなければ、打球のスピードが速いほどプレイは楽ではないだろうか。
 ボレーのときに低いテンションで反発を感じるという声が多い理由も、スピンやコントロールとも関係がありそうな気もするし、ボレーではオフセンターでのインパクトが多いということも考えられる。
 テンションの反発への影響は微妙である。
 しかし、見方を変えれば、テンションを多少変えても性能が大きくは変わらないことは、たいへん都合が良いとも言える。
 テンションをちょっと変えただけで性能が大きく変わるようであれば、プレイヤーにとってはやっかいである。
 著者には、ストリングスはたいへん機能的にできていると、むしろ感心する気持ちのほうが強い。
 理論的には、テンションはストリングの変形量に大きく影響し、ストリングスの変形量に関連する性能に影響すると言うことができる。
 テンションは、コントロール性あるいは手に伝わる振動など反発以外の要素に影響するほうが大きいのではないかと思う。
 テンションに関しては、ストリングスの種類やゲージの太さ、あるいはラケットのサイズを変えた場合に適正なテンションをどう選ぶかのほうがより重要ではないかと思われる。

(参考資料)
テンションとプレイのマッチング:Part5
テンションの秘密を科学で探る
実験結果と実際のスウィングの印象の間で,ギャップはなぜ 起こるのか
川副嘉彦,月刊テニスジャーナル 1995年10月号,pp.55-60.