テニスラケットの科学(559)
:コーポリ・ガット(ポリエステル系ストリング)
:実際にはどのような仕組みで機能しているのか(解説記事紹介)➃
:スピンの物理学

● スピンの物理学
 スピンの物理学は,ある意味では非常に単純である.スイング面の角度が急であるほど,また,スイングが速いほど強力なスピンが得られる. そして,スピンの物理学の原理はそれ以上でもそれ以下でもないと言える.
 しかし,ラケットフレームの技術,すなわちヘッドが大きく幅が広いグラファイト複合材製のラケットが,今日の高速で急角度のスイングテクニックを志向するトレンドを生み出し,木製フレームの時代に比べてスピンの量を劇的に増大させたことも明白である.
 そして最新のコーポリ・ガットの技術は,スピンをさらなるレベルへと進化させた.
 しかし,実際に新しいガットがより多くのスピンをどのように生み出すのかという物理的な仕組みは,さらに複雑で理解しにくいことも明らかになっている.
 トップスピンがかかったボールがガット面に進入し,ガット上をスライドして止まると,ボールはガットに「食いついた」状態になる. このとき,ボールの裏側はガットにめり込んでいるため,実際にはラケットと同じスピードで同じ方向に,すなわち前方かつ上方に動いている.
 ここで留意すべきことは,この事象はわずか数ミリ秒の間に起こっているということで,結果としてボールはトップスピンがかかった状態でガットからはじき出される. この作用は,ボールがコート上でバウンドする場合の作用に似ている. ボールの底がコートに当たると,ボールは滑り,減速した後,コートに食いつく. しかし,ボールの頂部は依然として前方に向かって運動しているため,その結果ボールにはトップスピンがかかり,前方に回転しながらコートから跳ね上がる.


(参考文献)
・(解説記事) コーポリ・ガット(実際にはどのような仕組みで機能しているのか)
ジョシュア・スペックマン  (訳:川副嘉彦)
埼玉工業大学工学部紀要 / 埼玉工業大学図書・紀要委員会(編) 第22号 2011年 pp. 37-45.