テニスラケットの科学(560)
:コーポリ・ガット(ポリエステル系ストリング)
:実際にはどのような仕組みで機能しているのか(解説記事紹介)⑤
:なぜ(新しいガット)はまっすぐなままなのか

● なぜ(新しいガットは)まっすぐなままなのか
 以上がボールとガットの相互作用の基本的な物理現象であるが,コーポリ・ガットではさらに別の事象が発生することがわかっている.
 選手たちは,新しいガットはゲームのポイントとポイントの間でまっすぐに戻す必要がないことをずっと以前から認識しており,より多くのスピンが得られることもそれで説明がつくと断言していた.
 常識的な説明は,単にポリ・ガットは粘着性が高いので,元の位置からずれないというものである.
 現在でも多くの人が信じているこの考え方は,ガットが「ずれない」ので剛性が高い面が得られ,摩擦が大きくなるため,より強力なスピンが得られるという論理に結びついていた.
 しかし,ガットとテニスコートの間には,この理論が誤っていることを明らかにする決定的な違いがある.
 テニスコートに向けて打たれたボールは,非常に鋭角でコートに着地することが多く,その際ボールはコートの上をスライドするため,ボールの底はコートに食いつかない.
 そうなると,ボールにはスピンがかかりにくく,スピードも減少する.
 しかし,ボールが鈍角でガットにぶつかる時には,ボールはガットに弾かれるため,このような現象はほとんど発生しない.
 もう1つの説明は,コーポリ・ガットは剛性が高く,死んでいる(弾力性が低い)ためナイロンや天然ガットに比べてパワー(反発力)が小さいというものである.
 この理屈に従えば,コポリマーガットで打ったボールは飛びにくく,コートの手前側に落ちやすくなる.
 従って,選手はさらに大きいスイングをすることになる.
(川副注釈)
・ コーポリ・ガットは剛性が高く,死んでいる(弾力性が低い)ためナイロンや天然ガットに比べてパワー(反発力)が小さいという推測は、その後、間違いであることが理論的・実験的に明らかになりました。
・ また、コポリマーガットで打ったボールは飛びにくく,コートの手前側に落ちやすくなるというのは、同じスイング(インパクト)のエネルギだとすれば、スピン量が増えれば、ボールの飛びは低減するという物理的(エネルギ保存の原理)にしたがっているだけです。
・参考図:

(参考文献)
・(解説記事) コーポリ・ガット(実際にはどのような仕組みで機能しているのか)
ジョシュア・スペックマン  (訳:川副嘉彦)
埼玉工業大学工学部紀要 / 埼玉工業大学図書・紀要委員会(編) 第22号 2011年 pp. 37-45.