テニスラケットの科学(615)
:打球感のメカニズム
:インパクトの衝撃はどのように手に伝わるか⑧
:(手に)衝撃を感じない(ストリング面)打点はグリップの握りの位置で変わる
● 手に衝撃を感じないストリング面の打撃点(衝撃反力 SR=0 となる点)がいわゆる「打撃(衝撃)の中心」であり、ラケットを持つ位置の違いにより変わってきます。 図7は、横軸にグリップ位置をとり、縦軸にそのグリップ位置の場合の(手に)衝撃を感じない打撃点(打撃の中心)を示したものです。 グリップ位置と各ラケットの打撃の中心の関係は以下のようになっています。
・ グリップ位置30mmのとき、(手に)衝撃を感じない打撃点は、 超デカラケ(超軽量トップヘビー、120平方インチ、張り上げ292g)タイプでは、 ほぼストリング面の中心(グリップ・エンドから500mm)に存在し、 デカラケ(110平方インチ、張り上げ366g)や超軽量トップヘビーのEOS100(張り上げ290g)のタイプでは 中心から約25mm程度根元側に、 従来型重量バランスのミッド・サイズ(EX-Ⅱ:張り上げ360gやプロト02)では 中心から50~60mm程度根元側に存在します。
・ グリップ位置70mmのとき、(手に)衝撃を感じない打撃点は、 超デカラケ(超軽量トップヘビー、120平方インチ、張り上げ292g)タイプでは ストリング面の中心から約25mm程度先端側に存在し、 デカラケ(110平方インチ、張り上げ366g)や超軽量トップヘビーのEOS100(張り上げ290g)のタイプでは ほぼ中心に、 従来型重量バランスのラケットでは 中心から約40mm程度根元側に存在します。
・ グリップ位置110mmのとき、(手に)衝撃を感じない打撃点は、 超デカラケ(超軽量トップヘビー、120平方インチ、張り上げ292g)タイプでは ストリング面の中心から約50mm程度先端側に存在し、 デカラケ(110平方インチ、張り上げ366g)タイプでは中心から約40mm先端側に、 超軽量トップヘビー(100平方インチ、張り上げ290g)のタイプでは 中心から約15mm程度先端側に、 従来型重量バランスのミッド・サイズ(張り上げ360g)では ほぼ中心に存在します。
・ この図において、逆にグリップのどの辺りを握れば、打撃の中心がストリング面の中心に来るかを 各ラケットについて見てみると、以下のようになっています。
・ 従来型重量バランスのミッド(張り上げ360g)は、 ラケットを短めに、 超軽量トップヘビー(張り上げ290g)のタイプはやや短めに、 デカラケ(110平方インチ、張り上げ366g)は
やや長めに持つと センターで打撃したときにグリップの衝撃は非常に小さくなります。
● まとめ
・ インパクトの瞬間に手が感じる衝撃反力に焦点を絞って、 打点やグリップの握りの位置が異なる場合に、 グリップ部の衝撃の大きさが、 ラケットの種類によりどう違ってくるかについて紹介させていただきました。
・ 今回のデータの中で設定したボールとラケットの衝突速度30m/秒(時速108km)というのは、
一般プレイヤーが速いスイングで打ったぐらいのストロークに相当します。
・ ストリング面のセンターで打つ場合で、 グリップを持つ位置の違いに注目して 今回の結果をまとめると、以下のようになります。
(1) ラケットを短めに持って打つプレイヤーには、 従来型重量バランスのラケットが手に伝わる衝撃は小さい。
(2) 標準的なグリップ位置(手の中心がグリップ端から70mm)で打つプレイヤーには、 デカラケが衝撃反力がもっとも小さい。
(3) ラケットを長めに持って打つプレイヤーや速いサービスを打つプレイヤーには、 超デカラケ(超軽量トップヘビー、張り上げ292g)が衝撃反力がもっとも小さい。
・ 今回のデーターは特定のメーカーのラケットで調べたものですが、サイズ、重量、が同程度のラケットでは他社のラケットにも当てはまるはずです。
・ 衝撃反力の大きさは、ラケットの形状や硬さよりも、重量配分や面の大きさで決まってきます。
続稿では、衝撃とともに手に伝わる「振動」について紹介させていただく予定です。
(参考文献)
・Yoshihiko KAWAZOE,
Mechanism of Tennis Racket Performance in terms of Feel,
Theoretical and Applied Mechanics, Vol.49 (2000), pp.11-19.
(参考資料)
・川副嘉彦、
ラケットの科学II-⑤、
月刊テニスジャーナル,12巻12号(1993年12月号), pp. 78-83.