テニスラケットの科学(631)
:テニスのスポーツ医学(テニスの障害)
:人間の手の機能と、それを維持するコツ
:手外科専門医・田中利和さんの「手の話」

●  臨床・スポーツ医学 平成29年(2017年)5月号の特集・テニスのスポーツ医学*で、川副研究室の実験データを引用して、「ストリングおよびガットが手関節・肘関節に与える影響」という解説記事を書いていただきました田中利和先生(当時 キッコーマン総合病院 整形外科部長)の「人間の手」に関する興味深い連載記事を拝見しました!

 以下は第一回の抜粋・引用です。
” ヒトの手はまるで精密機器
 年を重ねると動きが悪く手入れが必要に
 加齢とともに痛みやこわばりなどが生じ、動かしにくくなっていく「手」。
 その手にまつわるさまざまな知識を、手外科専門医である田中利和さんに、じっくり教えてもらう連載がスタート。
 まず人間の手だけが持つ機能と、それを維持するコツを中心に紹介します。

” 「手は体の中でも比較的小さなパーツですが、その中には片手だけでも27個の骨があり、さらに多くの関節や筋肉、腱、神経や血管までが凝縮されています。
(図1)

図ー1

 その一つひとつが連動することで細やかな動きが実現し、小さな物をつまむ、握る、使いたい物を自在に操る、といった目的を果たすことができているのです」(田中さん)
 「逆にいうと、骨や関節、筋肉、神経などのどれか一つでもトラブルを起こすと、手指全体の動きが悪くなり、目的を果たせなくなってしまいます。
 例えるなら、機械式時計やカメラのような、精密機器に近い構造を持つのが手だといえます」(田中さん)
 田中さんは手の中にある精巧なパーツを丁寧に識別し、診療に当たる。
 「例えば包丁で切ったところをただ縫うだけでは、神経が傷ついていた場合にしびれが残る恐れがあります」
” 

 米粒のような小さなものでもしっかりつまむことができたり、何かに触れて感触や温度を確かめたりするなど、繊細で優れた働きを持つ手。
 小さなパーツの中に驚くほど緻密な構造と機能が凝縮されている。
① 片手で27個もの骨が、筋肉は19筋もある
 片手の骨は、手首の付け根にある手根骨が8個、手の甲にある中手骨が5個、手指の骨・指骨が14個の計27個。(図1)
 筋肉は、手の大まかな機能を担うひじから手首に18筋、精密な指の動きを担う手内筋が19筋の計37筋。
 そのほか、神経が張り巡らされ、腱も多い。
② つまむ動きができる
 親指の付け根にあるCM関節は、親指がほかの指と向き合って物をつまんだり、つかんだりする動きを担っている。
 ただし日常的によく動かす部位であるため、使い過ぎによるダメージも起こりやすい。
 物をつまむときやふたを開けるときなどに痛みを感じる場合は要注意。
➂ 触覚に優れ、2点弁別閾(いき)は数mm
 コンパスの先など尖った物で皮膚表面を刺激したとき、先端の2点の間隔が狭いと1点のように感じやすい。
 「腹部などは2点の間隔が1cm以上ないと2点と認識しにくいが、手の場合は一般的に、数mm程度でも2点だと認識できる」。
 小さな点字が指先で認識できるのもそれゆえだろう。
④ 手の甲とひらで構造が異なる
「物をつかんだときに手のひらの皮膚が動かないのは、結合組織が皮膚と骨や腱鞘をしっかりつないでいるため。
 一方、手の甲の皮膚は、手のひらに比べて薄く、ルーズにできている」。
 手に外傷が起こると手の甲は腫れるが、手のひらはそれほどでもない。
⑤ 4本の指の腱は1本に束ねられている
 手には指を曲げる「屈筋腱(くっきんけん)」と、指を伸ばす「伸筋腱(しんきんけん)」があり、親指を除く4本指の腱が1本に束ねられて手首につながっている。
 「指同士が協調して動くことで、物を容易に握ったりすることができる」(田中さん)。
 なお、人さし指と小指にはそれぞれを伸ばすための独立した腱がある。

ヒトの手はまるで精密機器 年を重ねると動きが悪く手入れが必要に
日経クロスウーマン 2023.12.11
https://woman.nikkei.com/…/22/120600079/120600007/…
* 田中利和、ストリングおよびガットが手関節・肘関節に与える影響、臨床スポーツ医学、特集 テニスのスポーツ医学、Vol. 34, No. 5, 2017年(5月号)、 pp.440-445.