テニスラケットの科学(647)
:テニスボールのリサイクル・再利用(7)
:硬式テニスボールのリサイクル提唱と高品質再生「ECOボール」の研究開発*(6)  
使い古した硬式テニスボールを新品同様によみがえらせる「エコボール」の開発と普及
* 2011年のシンポジウム講演論文紹介

3章
 使い古した硬式テニスボールを新品同様によみがえらせる「エコボール」の開発と普及(文献2)

 テニスボールは、使わない状態であっても,次第に空気が抜けて柔らかくなってしまうため,圧力缶に入れられて売られている.
 空気の抜けたテニスボールの有効な利用方法がないため、大量にテニスボールを使用しているテニススクールやテニスクラブ,学校などは,産業廃棄物として有償で処分している.
 すぐに処分しないで繰り返し使用できるようにしたのが「エコボール」である(文献2).
 テニスボールの構造は,ゴム製のコア(ボール)に糊でメルトン(フェルト,メーカーにより呼び名が異なる)を貼り付け,
メルトンの貼り合わせ部をゴム(シーム)で補強している.
 沖本(文献2)によると、ボールを打った時の打感は,まずメルトン,次にコア,三つ目に糊で決まる.
 メルトンは,羊毛とナイロンを混ぜた織物で伸縮性が高い.
 羊毛が多ければ,打球感は良くなるが,製造コストが割高になる.
 コアの部分は,メーカーやボールのグレードによって異なり,糊にはゴム製で伸縮性の高い特殊なものが使われている.
 テニスボール表面の劣化は,テニスコート表面の材質によって異なる.
 見た目では,劣化していないようでも,空気は自然に抜けていき,次第に柔らかくなってしまう.
 ボールの特性も変化する(文献5).
 エコボールの特徴は,ただ単に空気を補充するだけでなく,独自の技術でメルトンを張り替えることにある,
 同じ空気圧でも,新品のメルトンと使い古したものでは,ボールをつぶした時の感触がまったく異なる.
 新しいメルトンに張り替えれば,新品同様の打球感になり,コアを繰り返し再利用することが可能になる.
 再生の工程は, 使用済みボールのメルトンをはがし,新しいメルトンに張り替え(論文中の図8(a)), 継ぎ目(シーム)に伸縮性の高いゴムを充填する(図8(b)).
 メルトンを起毛したあと,ボールに針を刺して,針穴をふさぐため充填剤を注入してから,空気や窒素を充填する(図8(c)).
 あらかじめ微量の充填剤が注入されているので,針を抜いても空気が漏れない.
 エコボールのメルトンには、公式試合用ボールよりも、羊毛の混紡率が高い生地を使用し,ボールを打った時の感触を高めている.

図―8


 空気圧は,有名メーカーの試合球とほぼ同じ 0.8 [MPa] に設定する.
 プレーヤーの技量や好み,テニスコートの材質に合わせて,空気圧を調整することが可能である.
 製造時にボールの内部に封印された物質からできた液体は排出するので,椅子や机の脚にクッションとして用いるためにエコボールに切り込みを入れても,有害な揮発性有機化合物の放散は非常に少ないはずである.
 市販テニスボールの価格は,新品(試合球)で2個入り缶500円,4個入り缶900円程度であるが,エコボールは1個90円と格安であり,半永久的に繰り返し使用できる.
 テニスボールを大量に使用するテニススクールや学校のクラブ活動に使われ始めており,沖本(文献2)によると「テニススクールのコーチからも好評を得ている」.
 これまで,テニスボールは,有効な利用法がなく,『ごみ』として捨てられていたが,「大量に消費されるボールを繰り返し再利用することで,限りある資源を有効に利用できる」.
 図9(論文中の番号)は,エコボールができるまでの工程の概略である.

図―9


 図9(a)は使用済みボール,
 図9(b)はメルトンを除去したコアの状態,これに特殊配合の接着剤を丁寧に塗布(サンアイ(株)の企業秘密),
 図9(c)は接着剤で貼る前の新しいメルトン,メルトンの継ぎ目にシーム材を注入(サンアイ(株)の企業秘密),
 図9(d)は金型から出たてのボール,毛が圧縮されている,
 図9(e)はスチーム処理(蒸気を使ってメルトンを起毛させる)を示す.
 さらに,図9(f):充填材注入(シームからエア抜けを抑える充填材を注入する),
 図9(g):加圧処理(コンプレッサでエアを規定圧までゆっくり加圧する),
 図9(h):圧力チェック・検品(製品のムラや圧力を再度チェックして完成)と続く
 (文献6).
(次稿に続く)

(文献)
(2) “使い古しのテニスボールを新品同様に再生 サンアイ”,地球環境新聞,2010年7月8日木曜日.
(3) 南野泰造,“千葉県テニス協会の取組み”,JTA環境リポート2011, p.11 (2011).
(4) 川副嘉彦,武田幸宏,中川慎理,青木克巳,“テニスのトップスピンとアンダースピンのボール挙動におよぼすボール毛羽の影響(超高速ビデオ画像解析と流れの可視化)”,ジョイントシンポジウム2009(スポーツ工学& ヒューマン・ダイナミクス)講演論文集, No.09-45, 日本機械学会,pp.118-123 (2009).
(5) Cross, R. and Lindsey, C., “Ball Testing”, Racquet Sports Industry magazine, July issue (2007), (September 30, 2011 recognized)
(6)“テニスボール革命ECOボール”,楽天市場 テニスハウス・エディ:(2011年10月1日確認)