テニスラケットの科学(646)
:テニスボールのリサイクル・再利用(6)
:硬式テニスボールのリサイクル提唱と高品質再生「ECOボール」の研究開発*(5)  
テニスボールのスピン性能におよぼすフェルトの影響(コントロール性)
* 2011年のシンポジウム講演論文紹介

 テニスボールのスピン性能におよぼすフェルトの影響(トップスピン打撃におけるコントロール性)
・図1:ボールコントロールにおよぼすボールの毛羽の役割

図ー1


・映像1:テニスボールのコントロール性におよぼすフェルトの影響
     (プロ・テニスプレーヤーによるオンコート実験)

・図2:トップスピンにおけるボールの揚力方向の測定と原理
    (火花追跡法による回転飛翔の可視化 )*

図―2

・映像2:フェルト(毛羽)無しボールとテニスボールのトップスピンにおける揚力の方向測定(東海大・機械工学科/実験) with NHK

・ プロ・テニスプレーヤーがトップスピンとアンダースピンで打撃したときのテニスボールとフェルト(毛羽)なし(滑面)ボールのスピン性能を超高速ビデオカメラにより測定・解析し,フェルト(毛羽)のスピン量におよぼす影響を明らかにし,流れの可視化によりボール・コントロールにおよぼすフェルト(毛羽)の役割を考察し,テニスボールの毛羽とスピンとボール・コントロールの謎を初めて明らかにしました.
・ フェルト(毛羽)なしボールは,スピン量(図a)が顕著に低減し(平均 50 %低減),接触時間(図c)も短くなっています(平均 23 %短い). スピン量が大きく減少するために,インパクト直後の打球速度(図b)は速く(平均 42 %速い),したがって,フェルト(毛羽)なしボールを強打すると,コート内に収まらないで,コート外に飛び出しやすいことになります.

 回転するボール周りの流れの可視化とスピンによるボールコントロールについての考察(テニスボールと毛羽なしボールの比較)
 図は, (a) 毛羽なしボール(滑面ボール)と  (b) テニスボールが 30m/s で飛びながら 3500 rpm で回転(反時計方向:トップスピン)している場合に相当するボール周りの流れを火花追跡法により可視化したものです。
 タイムラインの間隔により速度の大小が分かります。
 また,火花はボールに沿って流れ,ある位置で剥がれが生じているのがよく分かります。
 一般に物体が回転しながら飛翔する場合には、マグヌス力により飛翔方向に垂直な力が発生する(揚力)ことが知られています.
 テニスボール(b)においては 回転側(下側)の剥離点は上側の剥離点より下流にあり,また,下側の流れが上側の流れよりも加速されるため揚力は、図のように、下向きに働き, ボール周りの流れは左下がりで飛んでいるようになります。
 すなわち, テニスボールにトップスピンを掛けると ボールは飛翔しながら下向きの力が働き コート内の狙ったところに確実に落とすことができます.
 これに対して,毛羽無しの滑面ボールの場合は、同じ条件にもかかわらず, 図(a)のように, 上側の剥離点は下側より下流に移動しており テニスボールの剥離点とは異なり, 飛翔の向きは飛ぶ方向に頭を上げて飛んでいる形となります。
 また,ボールの上側の速度は下側の速度より速まることにより, 上側の圧力は下側の圧力より低下するため、図(a)のように揚力(逆マグヌス力の発生)が発生します.
 したがって, プレイヤーが同じ条件で滑面ボールにトップスピンをかけて打つと、コートをオーバーしたり,方向性が定まらないことも多い.(ビデオ映像参照)
 滑面球の場合は、 回転速度比 α=ボールの回転速度 / ボールの飛び速度 との比により、逆マグヌス力の発生する場合と正のマグヌス力が発生する領域とがあります。
(次稿に続く)
(参考資料)

・(研究紹介:テニスラケットの性能予測)事例3:テニスボールの毛羽の役割
https://kawazoe-lab.com/…/perf…/performance-prediction4/
(参考文献)

・ 川副 嘉彦, 沖本 賢次, 沖本 啓子, 南野 秦造, 島村 康太, 中川 真理,
 硬式テニスボールのリサイクル提唱と高品質再生「ECOボール」の研究開発
 シンポジウム: スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス講演論文集2011, 2011-10-30, pp. 441-446
https://kawazoe-lab.com/research/tennis-ball-recycling/

・ 川副嘉彦, 武田幸宏, 青木克巳, 中川慎理、
 超高速ビデオカメラと流れの可視化によるテニスボールの スピン挙動解析と毛羽の役割
 日本機械学会・年次大会講演論文集 : JSME annual meeting 2009、pp. 287-288.
https://kawazoe-lab.com/research/tennisuball_spin/