テニスラケットの科学(853)
: (備忘録:解説記事紹介)  
テニスのスポーツ医学 ストリングおよびガットが手関節・肘関節に与える影響*(その1):  
常識1:ナイロン,天然ガット,ポリエステルという素材の違いは反発性に影響しない  
常識2:テンションの違いは反発性に影響しない
*田中利和(キッコーマン総合病院整形外科),臨床スポーツ医学:Vol.31,No.5, pp.440-445, (2017)


(備忘録)
 臨床スポーツ医学 平成29年(2017年)5月号の特集「テニスのスポーツ医学」で、川副研究室の実験データなどを引用して、田中利和先生(当時 キッコーマン総合病院 整形外科部長)が「ストリングおよびガットが手関節・肘関節に与える影響」という解説記事を書いてくださいました.ぜひ,参考にしていただければと思います.

 以下は,記事**の引用です.
**テニスのスポーツ医学 ストリングおよびガットが手関節・肘関節に与える影響 | Article Information | J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/en/detail

 テニスのスポーツ医学
 ストリングおよびガットが手関節・肘関節に与える影響

画像ー1



 はじめに:
 よく,「ストリングスの種類によって,ボールが飛んだり飛ばなかったり」,また,「テンションを強く張るとボールは飛ばなくなり,緩く張るとボールは飛びやすくなる.」と説明されることがある.
 また,「ストリングスを緩く張ると,ボールの衝撃を多く吸収し,振動を低減するので,プレーヤーの上肢の傷害を防止するのに良い」と言われることがある.
 本当だろうか?
 ストリングに纏わる色々な疑問がある.
 現在まで行われてきた実験,実証からストリングが打球に与える影響とストリングによる人体への影響について確認されてきたことを「常識」としてご説明する.
 多くの内容は,川副研究室・川副嘉彦先生(元埼玉工業大学教授)および,Tennis Warehouse Universityの実験結果を踏まえたものである(注).
(注)川副研究室:http://kawazoe-lab.com/,Tennis Warehouse University:http://twu.tennis-warehouse.com/learning_center/index.php

 常識1:
ナイロン,天然ガット,ポリエステルという素材の違いは反発性に影響しない
 ストリングスの素材,構造の分類は図1に示す通りである.
 「ナチュラルガット」と「シンセティックストリング」は,天然素材か非天然素材(=化学繊維)かという違いで,シンセティックストリングの素材としては,ポリアミド6(ナイロン6),ポリアミド66(ナイロン66)ポリエステル,アラミド,ポリエーテルケトン等が用いられる.
 その形状から単一の糸からなるモノフィラメント(0.11~1.30㎜まで様々なサイズがあり),マルチフィラメント(細いモノフィラメントが複数束になったもの,1本0.027㎜から0.061㎜のサイズの糸を14本~360本束ねる)と分類されている(文献1).
 ナイロン系すなわち「ポリアミド合成繊維」は製造が容易で性能も安定しているために,現在一般のプレーヤーの中心的なストリングであった.
 Cross らは,ボールとストリングとの衝突実験における反発係数について,
 ストリングテンショ ン 52 lbs. の場合の反発係数は,
ナイロン:0.73(0.72~0.73),ポリエステル:0.74(0.71~0.78),天然ガット:0.78,
テンショ ン 62 lbs. の場合は,
ナイロン:0.73(0.70~0.76),ポリエステル:0.74(0.72~0.77),天然ガット:0.73 と報告している.
すなわち,ストリング素材の違いは,パワー性能にはほとんど影響しない(文献2).
図1:ストリングスの素材,構造の分類

図ー1



 常識2:
テンションの違いは反発性に影響しない
 「ストリングスを緩く張ると,ボールがよく飛ぶ」と言われる.
 しかし,実験結果によると,
 衝突速度 20m/sの場合,テンションを 44 % 増減しても,反発係数は1.4 % しか増減しない(図2)(文献3).

図ー2

 衝突速度30m/s の場合では,テンションを変えても反発係数はほとんど変わらない.
 反発係数におよぼすテンションの影響は非常に小さいのである.
 また,よく「ラケットにボールを乗せる」と表現される際には,ラケットとボールとの接触時間のことが検討される.
 これはテンションが強ければ強いほど,接触時間は短いように思われるが,通常のラリーにおける衝突速度 20 ~ 35 m/s では,2倍程度のテンションの違いによっても変化がない(文献4)(図3)(文献5).

図ー3


文献
1) 田中健司:テニスストリング及びガットの進歩と改良について,第34回テニス・メディカルセミナー抄録集,日本テニス・スポーツ医学研究会,5,2012
2) Cross, R. et al.: Which Strings Generate the Most Spin? Tennis Warehouse University, 2011, http://twu.tennis-warehouse.com/…/stringmovementPart2.php (2017年1月閲覧)
3) 川副嘉彦:テニスラケットのストリング性能論1(パワー,コントロール,打球感と性能の寿命 に関する考察),日本機械学会[No.13-34] シンポジウム:スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス 2013 講演論文集 313: 1-10, 2013.
4) 川副嘉彦ほか:テニスのインパクト諸量におよぼすラケットの物理特性の影響(ラケット面サイズとストリング初張力についての考察),日本機械学会[No.97-34]ジョイント・シンポジウム1997(スポーツ工学シンポジウム,シンポジウム:ヒューマンダイナミクス)講演論文集,23-27, 1997.
5) 川副嘉彦:ラケットの科学II ⑦ ストリングス・テンションはインパクトにどう影響するか,月刊テニスジャーナル 13:80-85, 1994.