テニスラケットの科学(854)
:(備忘録;解説記事紹介)
テニスのスポーツ医学 ストリングおよびガットが手関節・肘関節に与える影響*(その2)
常識3:プレーヤーは,テンションの違いを打感だけでは比較できない
常識4:スピン量には素材の違いが大きく影響し,ポリエステルが最大,ナイロンが最小
常識5:スピンは横に伸びた縦糸が元に戻るときの復原力によりスピンがかかりやすくなる
常識6:スピン量にはテンションの違いは影響しない
常識7:スピン量はガットを張り替えた時点から時間の経過とともに低減し,使用後のストリングスはスピンがかかりにくくなる
常識8:ストリングステンションが違っても,肩・肘・手首への影響は変わらない
* 田中利和(キッコーマン総合病院整形外科),臨床スポーツ医学:Vol.31,No.5, pp.440-445, (2017)
●

画像ー1
“
常識3:プレーヤーは,テンションの違いを打感だけでは比較できない
Bower らは,41名の耳栓をした上級テニスプレーヤーに,ストリングテンションを 最大20lbs違うラケット A とBを用意して,4球ずつストロークをしてもらい,比較した.
2本のストリングステンションの違いが11 lbs以内に正確に答えられた人数は11名(27%)であった.
15人(37%)は20 lbsの違いさえも答えられなかった6).
打感だけでは,テンションの違いは認識できなかった.
常識4:スピン量には素材の違いが大きく影響し,ポリエステルが最大,ナイロンが最小
Crossらは,素材の違いによるスピン量平均値は,ナイロン:122 rad/s,天 然ガット:143 rad/s,ポリエステル:153 rad/s であり,ナイロンに比べてポリエステルのスピン量は 25 % 大きく, 7 種類のストリングの比較をした実験では,スピン量平均値最大はポリエステル 165 rad/sであることを報告している(文献6-8).
ポリエステルはナイロンに比較して,耐久性が高く,スピンをかけやすいストリングスであった.
また,縦と横 のストリング間の摩擦が小さいことがスピン量増大の要因のようであった(文献7-8).
2013年のデータでは,男子プロテニス協会(ATP)のトップ 100 選手の 72 %,女子テニス協会(Women’s Tennis Association: WTA)のトップ 100 選手の 48 % がルシキロン社というポリエステル・ストリングの専門 メーカーのストリングを使用している (文献3).
常識5:スピンは横に伸びた縦糸が元に戻るときの復原力によりスピンがかかりやすくなる
縦糸と横糸の摩擦が小さいほど互いに滑ってボールがストリングに食いつきやすく,また縦糸が元に戻りやすいので横に伸びた縦糸が元に戻るときの復原力(snap-back(スナップ・バック)効果)によりスピンがかかりやすくなる.
新品のストリングほどスピンがかかりやすく,ストリングを張ってから 時間が経過するほど縦糸と横糸の交差点にノッチ(溝)(図4)(文献9)ができやすいため ,スピンがかかりにくくなる.
ノッチ溝ができたストリングでも交差点を潤滑すると,スピン量を増ことができたと報告されている(文献9.10) .
図4:

図ー4
常識6:スピン量にはテンションの違いは影響しない
Crossらは,スピン量の違いをストリングスの素材とテンションの異なる2つの状態(52lbs, 62lbs)で比較した実験を行った.
スピン量の平均値は,ナイロンではストリングテンション52 lbsの場合 118(106~130)rad/s,テンション62 lbs.の場合127(125~128)rad/s,ポリエステルでは52 lbsの場合 159(138~165)rad/s,62 lbs の場合151(144~162)rad/s,天然ガットでは 52 lbsの場合 149 rad/s,62 lbs の場合137 rad/sという結果を示し,スピン量平均値におよぼすテンションの影響は大きくはないといえる (文献2).
常識7:スピン量はガットを張り替えた時点から時間の経過とともに低減し,使用後のストリングスはスピンがかかりにくくなる
新品のストリングスと,1週間毎日3時間使用してノッチ(溝)のできたストリング,そして1週間使用したこのストリングスをシリコン系オイル(国際特許取得,ITFのルールにも適合)で潤滑した3者の場合のボールがラケットに当たる瞬間の高速ビデオ画像解析比較結果が報告されている (文献8,11).
3回の試行の平均値は,トップスピン打撃でストリングを張ってから1週間,毎日3時間使用したラケットの場合,新品のストリングと比べるとスピン量は平均40%と低減し,球速は上がるが,接触時間は低下した(図5)(文献12).
これは,縦糸と横糸の交差点にできたノッチ(溝)による滑りにくさが原因であると考察される.
ボールがラケットに当たると,手関節,肘関節に衝撃と振動が与えられる.
では,その際に,ストリングは手関節,肘関節にどのように影響するのであろうか?
ボール衝突時のラケット,手関節,肘関節に加速度センサーを取り付けて,その動態を測定した結果がある.
図5:

図ー5
常識8:ストリングステンションが違っても,肩・肘・手首への影響は変わらない
テニスラケットのストリングスを緩く張ると,ボールの衝撃を多く吸収し,振動を 低減し,プレーヤーの肩・肘・手首の傷害を防止するのに良いといわれることがある.
川副らは,ストリングテンションの異なるテニスラケット( 45, 65 lbs)でボールを打撃したときのプレーヤー上肢系衝撃振動の計測を行った(図6)(文献13) .
男子上級プレーヤー(全日本ランカー)のサービスストロークでは,テンション45 lbs は 65 lbs に比べて,ラケット・ハンドルの衝撃振動は大きめ,肘関節の衝撃振動はやや小さめであった.
この場合も,20 lbs のテンション低減に対する衝撃振動低減の効果は小さく,ストリングのテンションは肘,手関節には影響しなかった (文献13).
図6:

図ー6
●
文献
6) Bower R, et al.: Player sensitivity to changes in string tension in a tennis racket. J Sci Med Sport.6: 120-131, 2003.
7) 川副嘉彦:なぜポリ系ストリングが天然ガットとナイロンを凌駕したのか-テニスラケットの新しいストリング性能論とプレースタイル変革の視点から-,テニスの科学22:86-87,2014.
8 ) Kawazoe, Y. et al.: Super High Speed Video Analysis of Tennis Top Spin and Its Performance Improvement byBy String Lubrication.
The Impact of Technology on Sport, Subic, A et al. eds. ASTA Publishing, Stockbridge, 379-385. 2005.
9) 川副嘉彦:テニスラケットのストリング性能論2(ボールコントロールとスピンにおよぼす諸因子の影響),日本機械学会[No.13-34]シンポジウム:スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス 2013 講演論文集, 314:1-10,2013.
10) 川副嘉彦ほか:テニスのトップスピン性能のメカニズム(高速ビデオ画像解析と衝突シミュレーションによる考察),56回理論応用力学講演会 講演論文集,日本学術会議,.302-303,2007
11) 川副嘉彦ほか:テニスラケットのスピン性能におよぼすガット・ノッチの影響(スピン量・接触時間・打球速度の超高速ビデオ画像解析),日本機械学会論文集C編, .76, 2646-2655. 2010.
12) 川副嘉彦:ラケットのスピン性能のメカニズムとスピン打撃実験-威力あるトップスピンは関節の負担を軽減する-,テニスの科学 17:30-31,2009
13) 川副嘉彦ほか:ゆるいガットはテニス肘防止になるか?-フォアハンド・ストロークにおける手首関節およびサービス・ストロークにおける肘関節の衝撃振動の測定,テニスの科学 10:10-12, 2002
“
