テニスラケットの科学(856)
:(備忘録:解説記事 1998年)
ラケットの性能評価とテニス肘
:スポーツ工学からのアプローチ*(その1)
1.はじめに
2.テニスラケットはどう変わってきたか
3.ラケットとテニス肘
(続く)
*川副嘉彦(埼玉工業大学),製品と安全,第68号(平成10年),pp.2-9,1998.製品安全協会


(備忘録;解説記事 1998年)
ラケットの性能評価とテニス肘:スポーツ工学からのアプローチ*(その1)
*川副嘉彦(埼玉工業大学),製品と安全,第68号(平成10年),pp.2-9,1998.製品安全協会
https://kawazoe-lab.com/…/performance-evaluation-of…/ 
・ テニスラケットは1960年代前半までは木製でした.
1967年にスチール製、1968年にアルミ製の金属ラケットが現れ、1976年に 110 in2 のデカラケ、1987年に厚ラケ、そして1995年に長ラケが現れ,さらに 137 in2という超大型サイズが現れると,国際テニス連盟は、プロの試合では 1997 年の1月から、一般の試合では2000年の 1月から全長が29インチ以上のラケットの使用を禁止しました.
その頃の解説記事です.
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 以下は,記事*の引用です.

1.はじめに
スポ_ツ用具は、素材の複合化により設計・製造の自由度が大きくなり、 身体的条件や技術的条件の異なる使用者との整合を考慮したきめの細かい設計をめざす段階に至っている。
 ラケットの進歩がテニスのプレ一・スタイルをえたと言われている。
 しかし、ラケットの性能評価は、現状では、経験の深いテスターやプレーヤーを介して行われており、 性能評価に関する用語や表現には物理的定義が与えられていないのがほどんどである。
 ラケットに求められる基本的な性能は、パヮー、コントロール、打球感と一般にいわれている。
 またこれらの他に、「玉離れが良い」、「ホールド感がある」、「面の安定性が良い」 など” 微妙な性能の違いを評価する表現がいろいろある。
 一方、テニス肘をはじめとする障害と用具の問題がある。肘の痛みの原因は複雑であり、ほとんど未解明であるが、テニス肘になりやすいラケットが存在するということは、 多くのプレーヤーが経験的に認めているようである。
 軟らかいラケットを使うこと、ストリング`スをゆるく張ること、振動の少ないラケットを使うことなどがコ一チの勧める一般的なテニス肘対策である。
 しかし、用具の性能評価に関してプレーヤーやテスターが用いる感覚用語とラケッ トの物理特性との関係については不明な点が多く、メーカーのカタログやテニス専門誌の記事などにも誤解や矛盾がみられる。
 一般ユーザーにとっては、 仕様に与えられる情報が少ないこともあって、店頭にならんだ山ほどの機種の中から自分に合つた1本を選ぶのはきわめて難しい。
コートの上でボールを打ってみてはじめて性能がわかるというのが現実である。
 ここでは、感覚用語による性能評価と物理特性の関係を明らかにするための著者らのアプローチ例を紹介し、安全性に関連してどのような用具が手にやさしいかを探ってみる。
 体験で多少知っているという著者の都合でテニスラケットの例を挙げるが、ゴルフクラブや野球のバットなどの打具、あるいはヘルメットなどの衝突を伴う用具についても同様なアプローチが可能なはずであり、安全な製品の評価につながっていくことを期待したい。
 
2.テニスラケットはどう変わってきたか
 テニスの起源は、13世紀のフランスで行われていた「ジュ・ド・ポーム」という、手で直接ボールを打つ競技にさかのぼると言われている。
 テニスは手の代わりにラケットという用具を手で持ってボ一ルを打つ競技である。
 テニスラケットは1960年代前半までは木製で、68 in2 (平方インチ) のレギユラーサイズと決まっていたが、1967年にスチール製、1968年にアルミ製の金属ラケットが現れ、1974年には複合材のラケットが登場した。
これまでの30年の間にラケットは大き<変わってきたが、1976年に現れた 110 in2 のデカラケ、1987年の厚ラケ、そして1995年の長ラケは最も革新的なラケットだと言われている。  初期の複合材ラケットは強度不足で重かつ たが、1990年代になると軽量で剛性の高いラケツ トが市販されるようになった。 最近のラケツ卜はすべて主要な素材として複合材を使っている。  デカラケは、打球面が広いラケットである。 最近のラケットの打球面サイズは95 in2~110 in2(平方インチ)が主流であるが、最近 137 in2という超大型サイズも現れた。
 厚ラケは、フレーム剛性を高めたラケットである。
従来の4倍近くまで剛性を高めたラケットが当初は主流であったが、 最近は剛性をやや落としたラケットが主流である。
従来のフレーム厚19 mm 対して30 mm以上まで剛性の異なる多くの機種がある。
 最近は、フレームをあまり厚くしないで剛性の高い機種も開発されており、フレーム厚さと剛性は必ずしも比例しない。
また、剛性はフレーム形状やサイズに依存するから、素材の硬さとは異なるものである。
 ラケットは経験の産物であり、木製ラケットの時代からラケットの全長は27インチで変わることはなかつた。
 長ラケは、従来のラケット全長27インチ (約685 mm) を29インチ (約735 mm) まで長くしたラケットである。
 約半インチ刻みで全長を長くしたラケットが市販されている。
上記の 137 in2 の超大型サイズの全長は32インチ(812 mm) である。
 ただし、国際テニス連盟は、プロの試合では 1997 年の1月から、一般の試合では2000年の1月から全長が29インチ以上のラケットの使用を禁止したようである。
 現在は、フレームの質量と質量分布(質量バランス) 、剛性分布、打球面サイズと形状、ラケット全長などの異なる多くの機種が市販されている。
 さらに素材や太さの異なるストリングスも数多く市販されており、ラケットにはストリングスの適性テンシヨン(どのくらいの強さで張れば良いか) が表示されるようになった。
 ラケットの質量はひじように重要な要素であるにもかかわらず、カタログ記載値がストリングスの質量を含んでいるのかいないのかを明示していないものが多い。
 
3.ラケットとテニス肘
 1980年代に行われたテニス肘やスポーッ障害に関するいくつかのアンケー ト調査報告に基づいて、ラケットとテニス肘の関係についてまとめた報告がある。
 この報告は、ラケットの材質、打球面の大きさ、ラケットの重さ、ストリングスの張力などとテニス肘発生率との関係を考察している。
 これによると、ラケット材質とテニス肘発生率との間には、一定の傾向は認められていない。
 すなわち、木、金属、複合材 (コンボジットと呼ばれている) の3 種類の素材に差があるという報告もあれば、複合材が高いという報告もあれば、逆に木と金属の方が発生率が高いという報告もある(文献1)。
 また、硬いラケットがテニス肘になりやすいという報告があるが、自分のラケットが硬いかどうかは主観的であり、 素材が硬いということ、剛性が高いということ、 動的に硬い (振動数が高い)ということが混同されているようである(文献1) 。
 面の大きさに関しては、 従来のレギュラーサイズ (現在のラケットに比べると打球面がかなり狭い) から、セミラージ、ラージに変えた際に痛みが生じたという報告に対しては材質やガット張力が変わったためであろうという推測がなされている。
 ラージサイズは、 一般的にボールの飛びがよく、 オフセンターで打球した際のねじれが少なく、スィート・スポットが広く、肘に負担の少ないラケットであると考えられている(文献1)。
 ラケットの重さとテニス肘発生率との関係は、アンケート対象者の筋力などがチェックされていないので、はっきりした傾向は出ていない。
 ラケットは重すぎても軽すぎても駄目で、男子の場合は350 g、女子の場合は330 g程度のラケットが推奨されてぃる(文献1)。
 最近のラケットに関しては、 メーカーの立場から、肘への負担を軽減するラケツ トについての解説がある(文献2)。
これによると、トツププレーヤ一の場合は、ラケットの機能と技術の向上により打球が速くなり、インパクト時の衝撃が大きくなっている。
 一般のプレーヤーの場合は、テニスの基本ができてなくても楽しめるようになり、練習量の多いプレーヤーや中高年齢のプレーヤーにテニス肘(文献2)や手首・肩の障害を持つ人が多〈なったと言われている(文献2)。
 また、メーヵーの話では、筋力の弱い中高年齢プレーヤーが求めているラケットは、軽い力で楽にボールが飛ぶ厚ラケ系統が主流であり、衝撃吸収性の良いラケットが必ずしもユーザーのニ一ズに合うものではない。
 プレー頻度の高い競技者の場合は、ノーマルラケットの使用が主流になっている(文献2)。
 現在は、中高年齢プレーヤーを想定して厚ラケの衝撃吸収性を高めるための研究が進められており、フレームサイズの大型化や四角化によるスイートスポットの拡大、フレーム材料やグロメット(ストリングを通す部品)材料の工夫が図られている。
 ストリング面に装着する振動止めも,心地よい打球音・打球感を犠牲にするが,効果が期待できると考えられている。
 このような最近の研究開発によりテニス肘は減少傾向にあると推定されている(文献2)。

《文 献》
1) 友末亮三・武藤芳照、用具による安全対策一ラケットとテニス肘一、臨床スボーッ医学、Vol.3、No.6(1988), pp.631-635. 
2) 米山修一、肘への負担を軽減するテニスラケット、J.J. Sports Sci.,(1997), pp.13-16.


*川副嘉彦,ラケットの性能評価とテニス肘:スポーツ工学からのアプローチ,製品と安全,第68号(平成10年),pp.2-9,(1998).製品安全協会.
https://kawazoe-lab.com/…/performance-evaluation-of…/