テニスラケットの科学(859)
:(備忘録;解説記事 1998年)
ラケットの性能評価とテニス肘
:スポーツ工学からのアプローチ*(その4)
:感覚的性能評価とスポーツ工学(手首に伝わる衝撃振動とラケットの特性)  
*川副嘉彦(埼玉工業大学),製品と安全,第68号(平成10年),pp.2-9,1998.製品安全協会


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 4.感覚的性能評価とスポーツ工学
 4. 6 手首に伝わる衝撃振動とラケットの特性
 手首に伝わる衝撃振動の大きさは、打点の位置とグリップの握りの位置で異なる。
 衝撃成分は、ボールとラケットが衝突して接触しているときの衝突力が手に伝わることによるものであり、振動成分は衝突力により励振されたフレームの振動が手に伝わることにより発生すると考えるとわかりやすい。
 フレームが全く変形しなければ衝撃成分だけであるが、現実のラケットは剛性の非常に高い厚ラケでも振動が発生する。
 厚ラケの振動変位 (変形量) は小さいが、手が感じるのは加速度(あるいは力)であり、 厚ラケは振動数が高いので振動の加速度振幅は大きい。
 握りの位置が決まれば、 握りの位置に衝撃がほとんど伝わらない打点 (打撃の中心、または衝撃中心と呼ばれる) が決まってくる。
 逆に、打点が決まれば衝撃がほとんど伝わらない握りの位置が決まる。
 振動成分に関しては、握りの位置の振動が非常に小さい打点 (ラケット面上の振動の節) がある。
 また、フレームが振動しても、 その衝撃振動が手に伝わらないグリップ上の握りの位置 (グリップ上にある振動の節の位置) がある。
 すなわち,グリップの握りの位置が決まれば、ラケット面上の打撃領域に衝撃中心と振動の節があり、握りの位置に近いところにグリップ上の振動の節があれば、手に伝わる衝撃振動は小さいことになる。
 衝撃中心と振動の節の位置は通常異なる位置にあり、ラケットを手で握って打撃した場合の節の位置はラケット単体の場合の節の位置と多少異なってくる。
 また、衝撃中心と振動の節の位置の違はボールの飛びに関する性能にも影響するので、理想的なラケットの設計は簡単ではない。
 ただし、都合が良いことに、 ラケットを手で握って打撃する場合は、一般にグリップ上の節の位置は握りの位置に近づく方向に移動する。
(したがって,手で握った場合の手の位置の振動の大きさは低減する)
 図4 は、フォアハンド・グランド・ストロークにおいてラケット面先端側で打撃したときの手首節の実測加速度波形と予測波形を示す(文献4).
 グリップ位置はグリップ端から70 mmの位置である。
予測波形は実測波形の特徴をよく表しており、ラケットの衝撃振動が手首関節に伝わるメカニズムがかなり明らかになった。
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 図5 は、宙づりラケットのラケット面中心にボールを衝突させた場合のグリップ部の衝撃振動を予測した結果である。
 図 6 は、ラケット面の先端側・横のオフセンタ一にボールを衝突させた場合の予測結果である。
 最初のピークがインパクトの瞬間であり、残留振動が残る。
ラケットの違いが良く現れている。
画像4:図 5,図 6

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 ラケット面中心での衝突では、オフセンターでの衝突に比べてグリップ部の衝撃振動は小さいが、剛性の低い木製のラケットG と最もボールの飛びが良い大型・超軽量ラケットFの衝撃振動が大きい。
 オフセンター (中心から先端側の横方向に外れた位置) での衝突では、
 最も飛びの良くないラケットA とやや重めの大型ラケットD の場合がグリップ衝撃振動が小さく、
 ラケットB (非常に剛性の高い厚ラケ) とラケットF (最もボールの飛びが良い大型・超軽量) の場合がグリップ衝撃振動が大きい。
 5. おわりに
 テニス肘になりやすいラケットが存在するということは、多くのプレーヤーにより経験的に認められているにもかかわらず、肘の痛みの原因は複雑であり、テニス肘をはじめとする障害と用具の関係はほとんどわかっていない。
 用具の性能評価に関してプレーヤーやテスターが用いる感覚用語とラケットの物理特性との関係を明らかにすることをめざして、特に用具の安全性に関連してスポーッ工学からのアプローチ例を紹介した。
 今後、スポーツ工学が安全なスポーッ用具の製造や製品の安全性評価などにつながっていくことを期待したい。

《文 献》
3) 川副嘉彦・友末亮三、テニスのインパクトにおけるラケットのスイート・エリアの予測(反発係数、 反発力,ボールの飛び)、日本機械学会創立100周年記念スポーツ工学シンポジウム講演論文集、No.97-10-2(1997) , pp.66-73.
4) KAWAZOE,Y., TOMOSUE, R. & MIURA, A., Impact Shock Vibrations of the Wrist and the Elbow in the Tennis Forehand Drive, Proc. Int. Conf. on New Frontiers in Biomechanical Eng., (1997), pp.285-288.


 ラケットの性能評価とテニス肘:スポーツ工学からのアプローチ*
*川副嘉彦(埼玉工業大学),製品と安全,第68号(平成10年),pp.2-9,1998.製品安全協会
https://kawazoe-lab.com/…/performance-evaluation-of…/