テニスラケットの科学(229)
:スピンとストリング(27)
:プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション :講演論文(1999年)紹介
:テニスラケットのフレーム振動におよばすストリングスの張り方・張力分布の影響(1本張りと2本張りの張力分布の違いの影響)―その4(1本張りラケットと2本張りラケットの振動モード)

 図は、実験モー ド解析により求めた振動モー ドです。
 ボールとラケットが衝突したときには、接触時間が非常に短いので、静的な(ゆっくり作用する)力ではなく衝撃的な力(インパルス)だから、ラケットのフレームは、テニス記事でよくみられるような「たわみ」が発生するのではなく、衝撃・振動(衝撃成分と振動成分)が発生します。
 接触時間が短いほど、対象物に固有の多くの振動成分(固有振動)が発生しますが(振動数が低いほど発生しやすい)、ラケットの場合、主な振動は図のような成分です。
 どの振動成分が発生するかというのは、ボールとの衝突位置によっても違ってきます。
 1本張りの固有振動数と2本張りの固有振動数は、 振動数の分解能 4.8 Hzの範囲で一致しており,差は見 られません。
 1次 132 Hzはフレームの2節曲げ振動, 2 次 361 Hzは 2節ねじり振動, 3次 391 Hzは 3節曲げ振動, 4 次 615 Hzはストリングス面の膜振動です。
 4次 のストリング面の膜振動数は、ストリングスの張力(テンション) が高いほど、高くなります。
 1本張りの固有振動数と2本張りの固有振動数が一致しているということは、1本1本のストリングのテンションが異なっていても、ストリング面全体としては同じ振動数であることを意味しています。
 次の稿では、1本張りラケットと2本張ラケットのストリング面のトップ側・先端部とニア側・首部(スロート)の近くにボールが衝突したときの、振動の大きさ(初期振幅)を調べてみます。
(参考文献)
川副嘉彦・桜井匠・一木公央,日本機械学会ジョイント・シンポジウム1999(スポーツ工学シンポジウム,シンポジウム・ヒューマンダイナミクス)講演論文集、No.99-41,pp.212-216。 (1999年)