テニスラケットの科学(330) :テニスラケットの性能設計➂: テニスラケットの力学 :ストリング面の打点位置に換算した質量(重量)とは何か(3) ラケット評価の現状
● ラケット評価の現状
「ラケットの進歩が、プレイスタイルを変えた」と言われています。
しかし、テニスは体験により修得するものだから、主観的なものです。
したがって、ラケットがどう実際のプレイに影響をおよぼしたのか――これを客観的に評価するのは非常に難しいことです。
また、ラケットを選ぶときは、メーカーのカタログや専門誌の記事などが、いつも正しいというわけではないことに注意したほうが良いと思います。
もっともらしそうな説明の中にも、誤解や矛盾が含まれていることが多いようです。
たとえば、古い話になりますが、「アツラケは良く飛ぶ」という宣伝文句。
今でもよく聞きますが、アツラケが無条件に良く飛ぶわけではないのです。
ボールをラケット面の中心近くで打っていれば、アツラケでも薄ラケでも、重量バランス(正確には換算重量!)が同じなら、ボールの飛びの差はほとんどないのです。
これは知っていた方が良いでしょう。
また、名器と言われるようなラケットについてもプレイヤーの評価は様々です。
「飛ばないラケット」のようだという意見もあれば、名器と呼ばれるラケットが本当に良いのかどうか疑問であるといった声まであります。
一般プレイヤーにとっては、コートの上でボールを実際に打ってみてはじめて性能がわかるというのが現実でしょう。
しかし、実際にコートで打ってみてもラケットの評価はそう簡単ではありません。
やっかいなことに、ラケットの性能はプレイの状況により異なるのです。
壁打ちや練習での評価とプレシャーのかかる試合での評価とは必ずしも一致しません。
自分が攻めているときと攻められているときとでも、プレイの状況が異なるので、評価は違ってきます。
一般にラケットに求められる基本的な性能は,パワー,コントロール,打球感といわれています。
「玉離れがよい」、「ホールド感がある」、「面の安定性が良い」など微妙な性能の違いを評価する表現もあります。
さらに、このほかにも物理的な裏付けがないままに多くの感覚的表現がラケットの性能評価に用いられています。