テニスラケットの科学(807) 
:ストリングの「張り上げ・テンション」が「打球速度」と「スピン量」に与える影響
:テニス書・テニス雑誌の解説に「異見あり!」
:高校2年男子(テニス歴10年)の質問への回答として、「ストリングの横糸を2ポンド下げると回転がかかり、縦糸を2ポンド下げると飛びやすくなる」というプロ・ストリンガーの解説に「異見あり!」

・打球の「回転」や「飛び」に影響するのは「張り上げテンション」ではなく、「インパクトにおけるテンション」です.
・「張り上げテンション」(張るときの引っ張り荷重)と「張り上がりテンション」(張り上がった実際のテンション)は異なります.
・「張り上げテンション(引張荷重)」が同じでも、縦・横1本1本の糸の「張り上がりテンション」は異なります!
・張ったときからテンションは低下するので、2ポンド程度変えても、打球には影響しないと考えるのが自然でしょう!
・「張り上げテンション」を20ポンド変えても「打球速度」も「スピン量」も変わらないという実験データがあります!
・インパクトでは、張り上げ・テンションがラケットの反発力(ストリング面の復原力)にほとんど影響しないという物理的な理由があります.

テニス雑誌の最近号*「ストリングの基礎知識」の欄の高校2年男子(テニス歴10年)の質問
 「 プロ選手の間では、縦と横でテンションを2ポンド変える設定がはやっていると聞きました.どのような効果があるのでしょうか.」 
への回答として、
「横を2ポンド下げることによって、ストリングが動きやすくなり、スナップバックが起きやすくなります.その結果、ボールに回転がかかるので、コートに収まる確率が上がります」というプロ・ストリンガーの解説に「異見あり!」です.(画像1~画像3、画像4参照)
 「縦のテンションを2ポンド下げると、ボールの反発が増すためボールが飛びやすくなります」 というプロ・ストリンガーの解説に「異見あり!」です.(画像1~画像3、画像5~画像8 参照)
 この25年でストリングのインパクトに関する研究は、高速カメラと画像解析の進展により、加速的に進んだので、多くの実験データを参照して専門家の方は解説してほしいですね!(参考記事・参照)
*スマッシュ誌2025年9月号 p. 57.、「ストリングの基礎知識」 Vol. 99 

 打球の「回転」や「飛び」に影響するのは、
「張り上げテンション」(ストリングを張るときの引っ張り荷重)ではなく、
「インパクトにおけるテンション」(インパクトでストリングが引っ張られたときのテンション)
「縦のテンションを2ポンド下げると、ボールの反発が増すためボールが飛びやすくなります」というプロ・ストリンガーの解説記事(画像1)には「異見あり!」です.
・「張り上げテンション」(ストリングを張るときの引っ張り荷重)と「張り上がりテンション」(張り上がった実際のテンション)は異なります.

画像ー1

 画像2は、
同じ「張り上げテンション(引張荷重)」でも縦・横1本1本の糸の「張り上がりテンション」は異なることを示しています (画像2参照).
・打球の「回転」や「飛び」に影響するのは「張り上げテンション」ではなく、「インパクトにおけるテンション」です.

・画像3、画像4は、
トラックマンによる測定結果ですが、「張り上げテンション」を20ポンド変えても「打球速度」も「スピン量」も変わらない(プレーヤーの試打による実験データのバラつきの範囲内)ことを示しています.
・張ったときからテンションは下がっていくので、2ポンド程度変えても、打球には影響しないと考えるのが自然でしょう!

画像ー3


画像ー4

・画像5は、ボールとラケットの斜め衝突実験におけるストリング素材、テンションとスピン量(回転速度)の実測・平均値(左図)、および、ストリング素材、テンションと反発係数の実測・平均値(右図)です.

Rod Crossらの2010年論文にあるデータを川副がグラフ化したものです.

 マシンから発射するボールの衝突角度は、ストリング面(正面)に対してスピンが発生しやすい斜め40度です。

ストリング・テンションは、52ポンドと62ポンド、ストリング素材は、ナイロン1、 ナイロン2、 ナチュラル、ポリエステル1、ポリエステル2、 ポリエステル3、 ポリエステル4です。

左図において、テンションのスピン量への影響はほとんどなく、ばらつきの範囲とみなせます。

 ボールとストリング面の斜め衝突におけるスピン量は、微妙な引っかかり具合によって本質的に多少はばらつきます。

 右図では、ナイロン、ナチュラル、ポリエステルというストリング素材の違い、テンションの違いによる反発係数の差は見られません。

画像ー5

・画像6は、
エアキャノンから発射したボールを宙づりラケットに衝突させるよる実験(論文あり)ですが、高速画像解析した実験結果によると、
テンションが40ポンドでも70ポンドでも、
ラケットの反発力(ボールを跳ね返す力、画像7)もスピン量(ボールの回転速度、画像8)に違いがないことを示しています.

画像ー6


画像ー7


画像ー8



(参考記事)
・テニスラケットの科学(777)
:クロス・ストリング(横糸)の本数はスナップバック(スピン量増大)に影響するか?
:論文と実験結果*の紹介と川副研究室のコメント 「メインストリングの動きの測定とテニスボールのスピンへの影響」*
:(コメント:川副研究室) 「実際のプレーに相当するトップスピン(入射速度30 m/s, 入射角約40度)では、横糸の本数はほとんどスピン量(スナップバック)には影響しない」 ことになる!
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-777/
 
・テニスラケットの科学(741)
:テニスラケットの科学(721)の補足18
:(備忘録)慶應義塾大学 総合政策・環境情報学部講義「スポーツエンジニアリング」 (ゲストスピーカー 川副嘉彦) 2024年11月8日(金)、9時25分~10時55分
:「テニスを科学する:テニスボールとラケットの衝突」
:プロのストリンガーも誤解しているストリング
:張るときのテンション(引っ張り荷重)と張り上がったテンションは異なる!
:ストリング・横糸の張り上がりテンションは,張り上げテンション通りにはならない!
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-741/
 
・テニスラケットの科学(725)
:テニスラケットの科学(721)の補足3
:(備忘録)慶應義塾大学 総合政策・環境情報学部講義「スポーツエンジニアリング」 (ゲストスピーカー 川副嘉彦) 2024年11月8日(金)、9時25分~10時55分
:「テニスを科学する:テニスボールとラケットの衝突」
:ナイロン,天然ガット,ポリエステルの反発係数には違いがない!
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-725/
 
・テニスラケットの科学(722)
:テニスラケットの科学(720)の補足1
:(備忘録)慶應義塾大学 総合政策・環境情報学部講義「スポーツエンジニアリング」 (ゲストスピーカー 川副嘉彦) 2024年11月8日(金)、9時25分~10時55分
:「テニスを科学する:テニスボールとラケットの衝突」
:ラケットとボールがぶつかるとき何が起きているのか?
:ストリングの張り上げテンションが40ポンドでも60ポンドでも打球速度は変わらない (トラックマンによる測定結果の例)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-722/
 
・テニスラケットの科学(704)
:インパクト(反発速度とスピン速度)におよぼす(張り上げ)「ストリング・テンション」の影響   (再度,ご質問に答えて!)
:質問 「ストリングは硬い、柔らかいで飛びがどう変わるか?」
:質問 「ストリングの硬さ、柔らかさでスピンのかかりやすさは変わるのか?」
:実験データ(論文)*の追加
:「張り上げテンション」に 40ポンド と 70ポンド の違いがあっても,  反発力性能とスピン性能に違いはない!* * Effect of string tension on the impact between a tennis ball and racket, S.R. Goodwill, S.J. Haake, The engineering of Sport 5, Volume 2, pp.3-8, 2004.
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-704/
 
・テニスラケットの科学(539)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(49)
:ストリング・テンションとラケット性能② 
:ストリングのテンションを低くしても、ボールの打ち出し角度は大きくならない!
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-539/
 
・テニスラケットの科学(473)
: プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション :ストリング・テンションと「ボールの打ち出し角度」の誤解を解く  ① ボールのネット通過高さ(トラックマンによる測定例:参考データ)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-473/
 
・テニスラケットの科学(467)
:テニスラケットの科学(325)*の補足3
:トラックマンによる測定例(参考データ) *テニスラケットの科学(325)
:スピンとストリング(69)
: プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション
:再度テンションの大誤解を解く(その3)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-467/ 

・テニスラケットの科学(294)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(38)
:【ストリング選びに役立つ基礎用語】(3)「反発性」
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-294/
 
・テニスラケットの科学(27)
:ストリング素材の主な種類とスピン性能および反発係数
https://kawazoe-lab.com/tenn…/science-of-tennis-racket-27/