テニスラケットの科学(855)
: テニスと障害
: (備忘録;解説記事紹介)
テニスのスポーツ医学 ストリングおよびガットが手関節・肘関節に与える影響*(その3)  
常識9:トップスピンをかけると,手関節への衝撃力は低減する.  
常識10:ダンパーは上肢の障害予防には,有効ではない  まとめ:
*田中利和(キッコーマン総合病院整形外科),臨床スポーツ医学:Vol.31,No.5, pp.440-445, (2017)


常識9:トップスピンをかけると,手関節への衝撃力は低減する
 ラケットのエネルギーロスの少ない部分(スイートエリア)で打った際の手関節部位に及ぼす振動は,その他の部位で打った際に比較して衝撃,振動は少ない.
 打撃の部位,またグリップの握る位置によりその振動量は変化するが(文献14),ラケットの根元,先端ではラケットフレームの振動により3㎜ 強のたわみ変化があり,振動として手関節に影響する.
 図 7(文献15)は衝突速度 30 m/s の場合の手首関節・衝撃振動のシミュ レーション波形である.
 図7 a は使用後ストリングでフラット打撃,図7 b は同じストリングでトップスピン打 撃,図7c は潤滑剤を塗った使用後ストリングでトップスピン打撃,図7 d は新品ストリングスでトップスピン打撃の 場合に相当する.
 図7 b , c のインパクトにおける力積・垂直成分はそれぞれ図7 a フラット打撃の 85 %,65 %であり,インパクトの衝撃力はそれぞれ図7 a の65 % ,41 % という結果になっている (文献9,15,16).
図7:

図ー7



常識10:ストリング・ダンパーは上肢の障害予防には,有効ではない
 ストリング・ダンパーは,手関節から肘,肩関節への振動を低下させる目的で作成されたといわれる.
 しかし,ラケットの種類が変わっても,スイートスポットから離れた位置にボールがあったとしても,振動周波数と振幅には変化がないと複数の報告がある(文献17,18).

まとめ:
 ストリングスの体への影響は,ストリングスの種類も,テンションも,ダンパーも関係なかった.
 上肢への衝撃と振動という面から身体への影響を考えると,フラットに比較してトップスピンの場合の負担が少なく,スピンのかけやすさからいうとポリエステルのストリングスがよいことになる.

謝辞
 監修そして,多くの図の転載をご許可いただいた川副嘉彦先生に深謝申し上げます.

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文献
14) 川副嘉彦:ラケットの科学5:スウィート・エリアを探る②,月刊テニスジャーナル 10:130‐35, 1991
15) 川副嘉彦ほか:テニスラケットのスピン性能のメカニズム (ストリング交差点潤滑によるスピン性能向上の超高速ビデオ画像解析,日本機械学会論文集C編 72:1900-1907. 2006
16) Kawazoe Y. et al.: Tennis Top Spin Comparison between New, Used, and Lubricated Used Strings by High Speed Video Analysis with Impact Simulation, Theoretical and Applied Mechanics Japan 57, 511-522. 2009
17) Timme N. et al: The mode shapes of a tennis racket and the effects of vibration dampers on those mode shapes. J Acoust Soc Am. 125: 3650-3656. 2009
18) Li FX. et al: String vibration dampers do not reduce racket frame vibration transfer to the forearm. J Sports Sci 22: 1041-1052. 2004