テニスラケットの科学(882):
(備忘録:解説記事 2003年) 
テニスラケットの素材・構造と性能*(その4)
3.感覚的性能評価とスポーツ工学による性能予測
3.3 インパクトのシミュレーションとラケットの性能予測
*川副嘉彦,テニスラケットの素材・構造と性能,バイオメカニクス研究(日本バイオメカニクス学会誌),(特集:素材とスポーツ)、第7巻2号,(2003), pp. 136-151.


 (続き)
3.3 インパクトのシミュレーションとラケットの性能予測
 ボールとラケットの衝突モデルおよび反発係数の導出法について簡単に述べる(川副,1992b; 1995; 1997; 1999; 2000a; 2002a).
 ボール・ストリングス系の非線形復原力特性および減衰特性は実験的に1自由度の等価系に同定し(図6),さらにラケットあるいはラケット・腕系の剛体運動特性および振動特性を実験的に同定する(図7,図8).
 ラケットのグロメットの(ストリングスを支える)部分や人間のモデルなど理論的扱いが難しい部分は実験的に同定すれば,詳細な特性が理論的にわかっていなくても,使用状況におけるラケットの性能を客観的に評価することができる.
 ただし,ボールのスピンは考えない.
 プレイヤーがボールを打撃した瞬間に腕系に伝わる衝撃力を計算するための図8のモデルにおいて,インパクトの瞬間には重力や筋力は衝突力にくらべて小さいとみなし,ハンドルの握りの位置と手首関節の位置の距離を無視している.
 図9はボールの飛びに関するラケット性能を予測するためのフォアハンド・グランド・ストローク(バウンドしたボールを打つ)のスイング・モデルである.
 肘と手首の関節角度を一定にして,肩関節トルク Ns を与え,90 度回転したときのラケット・ヘッド速度 VRo で VBO で飛んでくるボールを打撃する.
女子トップ・プロのラリーにおけるフォアハンド・グランド・ストローク(バウンドしたボールを打つ)のインパクト速度を想定すると,おおよそ Ns = 56.9 N・m,VBO = 10 m/s である.

画像ー1


図6 ボール・ストリングス複合系の衝突モデル
図7 ストリングス・メッシュ(ストリングス上の4点でボールと接触するとして同定する)

画像ー2


図8 衝撃力予測のための腕系モデル
図9 スイング・モデル(グランド・ストローク)
 図10は,ラケットのストリング面の中心にボールが衝突したときの力積波形の予測例であり,正弦半波で近似している.
 ストリング面のボールの衝突位置が極端に中心から外れる場合を除くと腕系の重量はほとんど影響しない.
 衝突速度が増すと接触時間が短くなり,衝突力は急激に大きくなる.
 図11は,ボールとラケットの接触時間の実測値(黒)と計算値(白)の例である.
 接触時間は,熟練者・未熟練者の差,あるいはスピンの差による影響は小さく,ほとんど衝突速度に依存することを示す.

画像ー3


図10 ボールとラケットの衝突力の計算例,衝突位置:
ストリング面中心,衝突速度 (a) 20 m/s および
(b)30 m/s(7)

画像ー4


図11 ボールとラケットの接触時間の実測値と計算値
の例
 ボールとラケットの衝突により,ボールとストリングスは変形し,ラケットは剛体運動をしながら振動する.
 図12は,ボールがストリング面の中心および中心を外れた位置で衝突したときのラケットの初期振動振幅を予測した例である.
 ストリング面の中心で衝突するとラケット・フレームの振動は小さい.
 ボールとラケットの反発係数(COR) er は,インパクトにおけるエネルギ損失と密接に関係しており,ボールの変形によるエネルギ損失およびラケット・フレームの振動によるエネルギ損失が少ないほど反発係数が高い.
 ラケットによって多少差があるが,ストリング面の中心近くで最も反発係数が高い.
 図13は,木製ラケット(図2(a))と初期の厚ラケ PROTO-02 (図2(b),重量が木製に近い)の反発係数 er の予測結果である.

画像ー5


図12 インパクトの瞬間のラケットの初期振動振幅計算値,衝突速度:30 m/s,衝突位置:左からストリング面の根元側,
中心,先端側

画像ー6


図13 木製ラケットと初期の厚ラケPROTO-02の反発
係数の予測

(引用文献)
・川副嘉彦,テニスラケットの素材・構造と性能,バイオメカニクス研究(日本バイオメカニクス学会誌),(特集:素材とスポーツ)、第7巻2号,(2003), pp.136-151.
https://kawazoe-lab.com/research/tenisutakettonosozai/

(続く)