テニスラケットの科学(205):スピンとストリング(3) : テンションを変えてもボールとストリングの反発係数が変わらないのはなぜか? (その1)

● 硬い壁にテニスボールを衝突させると!(実験)
図1は、変形しない硬い壁にテニスボールを衝突させる実験ですが、この場合は、衝突速度が増すにつれて反発が悪くなります(ボールの反発係数が低下)。(*1)
(補足)
ITF(国際テニス連盟)のルールでは、254cmの高さから落下させたときの跳ね返り高さが約135 cm~147 ㎝ と規定されています(反発係数は約0.73~0.76に相当)。
しかし、この場合の衝突速度は約7m/秒(時速25キロ)に相当しますから、実際のプレーにおける速度と比べると非常に遅いことになります。
したがって、公認球であっても、実際のプレーにおけるボールの反発係数は、メーカーによってかなり異なることもありえます。
*1:Yoshihiko KAWAZOE, Coefficient of Restitution between a Ball and a Tennis Racket,
Theoretical and Applied Mechanics, Vol.42(1993),pp.197-208.

● ラケットヘッドを固定したストリング面にテニスボールを衝突させると!(実験1)
図2は、ラケットヘッドを固定したストリング面にテニスボールを衝突させた実験結果です。(*2)
縦軸はボールの衝突前の速度(入射速度)に対するボールの跳ね返り速度の比、すなわち、ボールとストリングの反発係数 Vout/Vin、横軸は ボールの衝突前の速度(入射速度)です。
ボールの入射速度が14m/秒と25m/秒の実験範囲(通常のストロークにおける衝突速度)では反発係数 Vout/Vinの値はほとんど一定でです。
また、ナイロン・ストリングのテンション(初張力、張った時のテンション)が30ポンドのときと60ポンドのときの値もほとんど同じです。
40~50ポンドで張った天然ガット(シープ)の場合の反発係数も、近い値を示し、平均すると0.83程度になっています。
ボールを硬い壁に衝突させた場合の反発係数が衝突速度の増大とともに減少するのに対して、ストリングの変形のエネルギーはほとんどボールに戻されるので、ストリング面周りのフレームを固定した場合のボールとストリング面の反発係数は、ストリングの材質やテンションにはほとんど依存せずに、ボールの急速変形によるエネルギー損失に依存することになります。
*2:川副嘉彦、衝突現象を考慮したテニスラケットのCAE(ボールとの衝突におけるラケットの応答予測と反発性能の評価指針)、日本機械学会論文集. C編 58巻552号、pp.2467-2474.(1992年)

● ラケットヘッドを固定したストリング面にテニスボールを衝突させると!(実験2)
図3は、同様に、ラケットヘッドを固定したストリング面にテニスボールを衝突させる実験(*3)ですが、衝突速度の設定を広い範囲に変えて、ストリング・テンションの影響を詳細に調べた実験結果です。
図3(a)では、衝突速度が大きくなっても、ボールとストリングは比較的に高い反発係数を示しています。

また、図3(b)に示すように、ストリングテンションに40ポンドの違いがあっても、反発係数の違いは非常に小さくなっています。
特に、プレーにおける通常の速度20m/s、30 m/sにおいて、40ポンドもテンションが異なっていても、ボールとストリング面の反発係数(平均値)の違いはほとんどありません。
*3:Kawazoe, Y., Tanahashi, R. and Casolo, F., ”Experimental and theoretical criticism of the effectiveness of looser strings for the reduction of tennis elbow”, Tennis Science & Technology 2, pp.61-69. (2003). ITF (International Tennis Federation).