テニスラケットの科学(211):スピンとストリング (9) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション :実用範囲では「接触時間」に(張り上がり)「テンション」が影響しない理由

● 「テンションが低いほど接触時間は長い。テンションが高いほど接触時間は短い」という説(?)が一般的ですが、その原因は、1987年発行のHoward Brody(ハワード・ブロディ)著、「Tennis Science for Tennis Players」に掲載された接触時間とテンションと衝突速度(11 m/秒=時速40キロ以下)の関係を示す(イラスト的な)グラフ(図参照)だと思います。(テニスラケットの科学(206)参照)
 グラフを見ると、衝突速度が大きくなるほど、テンションの影響が次第に小さくなっています。11 m/秒=時速40キロを超えていくと、その先は、4本の曲線が一つになっていくように予想されます!
● なぜ、実用範囲では接触時間に(張り上がり)テンションが影響しないかという理由は以下の通りです。(テニスラケットの科学(207)参照)
 「接触時間は、面圧(ストリング面剛性、ストリング面のバネとしての強さ)の平方根に逆比例」します。
 正確には、「接触時間は、インパクトにおけるボールの面圧(つぶれ剛性)とストリング面の面圧(面剛性)を合成した値の平方根に逆比例」です。
 ストリング面のたわみが少ない(衝突速度が低い)ときは式に示すように(張り上がり)テンションの影響が大きいです。
 しかし、たわみが大きい(衝突速度が大きい)場合は、(張り上がり)テンションの影響よりもたわみの影響の方が大きく(急激に硬くなる、変形しにくくなるので)なるからです。(ボールもストリング面も非線形硬化バネ特性:変形が大きいほど硬くなる性質を持ちます。)
 ストリング面のたわみが大きいほど、面圧(面剛性)が高くなるのは、わかりやすく言うと、ストリング面と直角方向にたわむからです。長さ方向に引っ張るより、直角方向に引っ張る方が大きい力が必要だからです。
 ボールがつぶれるほど硬くなるのは、わかりやすく言うと、ボールの中の気体の容積が小さく(部屋が狭く)なるからです。