テニスラケットの科学(240):スピンとストリング(38) : ストリング別のスピン結果 :スピンがかかりやすいストリング素材 :ストリング素材は硬いほどスピンがかかりやすい。ポリエステルが主流

・ ポリエステルストリングは、ヨーロッパのジュニア選手がアンツーカのコートで使い始め、彼らがトッププロになっても使い続けたことと、飛び過ぎないというイメージもあって上級パワープレーヤーたちに人気が出始めました。
 そしてポリエステルストリングを使用した選手の活躍によって、一気にメジャーになったと言われています。
 鋭いスピンを打つことで知られるラファエル・ナダルもポリストリングを使用しています。
 表面摩擦が大きい「スピンガット」と呼ばれるようなナイロン系ストリングを使用しているわけではありません。
 全米ラケットストリンガー協会の機関誌に掲載されたデータによると、USオープンでの世界ランク上位20名の男子選手が使用したストリングの種類は、
1995年度はナチュラルが69%、ナイロンが26%でしたが、
2004年度にはナチュラルが11%、ナイロンが5%、ポリエステル(縦糸にポリエステルのハイブリッドを含む)が84%で、
今から15年前に、すでにポリエステルが主流になっています。
 ポリエステルストリングの張り上がり後のテンション低下(テンションロスと言われる)が欠点として指摘されることが多いようですが、テンションは張った直後から低下していくもので、ポリエステルに限ってのことではありません。
 試合のときは一球ごとに低下していきます。
 テンション低下(テンションロス)は何が悪いのかという実証はありません。
・ナチュラル、ナイロン、ポリエステルストリングの違いとスピン量
 図1は、ボールとラケットの斜め衝突実験におけるストリング素材、テンションとスピン量(回転速度)の実測値(平均値)です。
 図2は、ストリング素材、テンションと反発係数の実測値(平均値)です(Rod Crossらの2010年論文にあるデータをグラフ化しました)。
 マシンから発射するボールの衝突角度は、ストリング面(正面)に対してスピンが発生しやすい斜め40度です。
ストリング・テンションは、52ポンドと62ポンド。
ストリング素材は、ナイロン1、 ナイロン2、 ナチュラル、ポリエステル1、ポリエステル2、 ポリエステル3、 ポリエステル4です。
 図1において、ストリング素材の違いによるスピン量(平均値)は、
ナイロンが122rad/s(2330rpm)、
ナチュラルが143rad/s(2731rpm)、
ポリエステルが153rad/s(2922rpm)です。
ポリエステル→ナチュラル→ナイロンの順にスピンがかかりやすい結果になっています。
割合でいうと、ナイロンに比べてポリエステルのスピン量が25%大きいという結果です。
 テンションのスピン量への影響はほとんどなく、ばらつきの範囲とみなせます。
 ボールとストリング面の斜め衝突におけるスピン量は、微妙な引っかかり具合によって本質的に多少はばらつきます。
 図2では、ナイロン、ナチュラル、ポリエステルというストリング素材の違いによる反発係数の差は見られません。またテンションの違いによる反発係数の差も見られません。
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 したがってこれらのデータから見ると、ストリング素材の違いは打球に関して、スピン性能のみに影響するということになります。
 2005年以前の出版物には反発係数にテンションの影響があるという記述が多く見られ(時代によって影響の仕方が正反対の説明も見られます)、いまだに誤解されることが多いのですが、研究者の世界では今やテンションは反発係数にほとんど影響しないというのが常識になっています。
・ ITFもストリング素材別の
  スピン実験結果を公表
 国際テニス連盟(ITF)はポリエステルストリングでも、潤滑剤を塗布したストリングがスピン量を増すのと同様の結果を確認し、
 滑りやすく剛性の高いポリエステル系ストリングが強いスピンを生み出すのは“摩擦が小さいため”であることを認めました。
ポリエステルは、ナイロンよりも20%、ナチュラルよりも11%ほどスピンが大きいという実験結果を発表しました(2013年)。
 ITFテクニカル・センター所長のミラー氏は、ポリエステルは現時点で、過去に使用禁止となった「スパゲッティ・ストリング(二重のストリング/別枠参照)」のスピンには到底及ばない、しかし、ITFは市場に出されるストリングを一つひとつテストするつもりであるとも語っています。

 

図1

図2