テニスラケットの科学(535)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(45)
:ストリングの太さ(ゲージ)1.1mm、1.2mm、1.3mm の3種類とラケット性能②(ラケットの反発力、打球速度)
:理論的な裏付け

● 「テニスラケットの科学(534)」において、日本スポーツ企画出版社から発行されたスマッシュ誌の2023年3月号33ページに掲載された「ストリング基礎知識」のQ&Aの回答(A)は、トラックマンを用いた測定データと異なり、「異見あり!」でした。
「異見」は、精度が良いと言われているトラックマンの測定結果から、
・ストリングの太さ(ゲージの直径)は打球速度には影響しない。
・ストリングの太さ(ゲージの直径)はスピン量には影響しない。
となります。

● 図1~図5は、理論的な裏付けです。
(追記)2023年4月27日

図ー1

図―2

図ー3

図―4

図―5

● 「太いストリングのメリットやデメリットを?」という読者の質問に対してですが、
「ストリング・ゲージの太さ(素線の直径)、素材の違い、張り上がりテンションなどと、インパクトにおけるストリング・テンションによる反発力(復原力)の関係について、上記のスマッシュ誌の回答を拝読すると、プロのストリンガーの人たちにも大きな誤解があるようです!
・ インパクトにおけるストリング・テンションは、その打球方向成分が復原力(あるいは反発力)となって、ボールを跳ね返すのですが、打球後に残る「残留振動・音色」を楽しむためのものでもあります。
・ほとんどのテニス・ファンに誤解があるようですが、(実験でも、理論的にも、シミュレーションでも、)
インパクトでは、「張り上がりテンション」は反発力や打球速度にほとんど影響しませんが、
打球後の「残留振動・音色」には、直接、大きく影響します。
・ボールを跳ね返す力(ラケットの反発力)は、ストリングを張った時のテンション(面圧でいうと 2 kgf/mm程度)ではありません。
・ ボールを跳ね返す力(ラケットの反発力)は、インパクトにおける(ストリングが伸びた状態での)テンション(面圧でいうと 10 kgf/mm 以上)です。
・テンションの打球方向成分が復原力、すなわち反発力になります。
・ ストリングを張ったときの(ストリングがたわんでいないとき)のテンションは、復原力の方向、すなわち打球方向と直角の方向ですから、ボール飛ばすことはできません!

● したがって、インパクトでのテンション S が高いほど、ストリングの反発力(あるいは復原力)Fは大きいことになります。
 ボールは、ストリングを張った時のテンションではなく、インパクトにおけるテンションで跳ね返すと言えます。
・ストリングのたわみ量が同じなら、ストリングが太いほど(素線直径Aが大きいほど)、硬いほど(ヤング率Eが大きいほど)、反発力(復原力:インパクトにおける面圧)は大きく、変形(たわみ)量は小さくなることが、力学的にも言えます。
*テニス用語で言われる「面圧」という表現は、物理用語ではなく(圧力の単位ではなく)、面剛性(面バネ剛性、硬化・面バネ定数)という意味です。すなわち、「単位の長さだけ面をたわませるのに必要な力」という意味です。
 インパクトにおける面圧は、ボールとラケットの衝突速度が大きいほど、大きくなります。

● 通常のガット(ストリングスの意味)の丸い断面に対して,表面に凸形状を形成して摩擦を増やすことでスピン量を増大するという発想の「スピンガット」と称されるものが市販されてきました.
 しかし,ガットはメイン(縦)とクロス(横)を交互に裏表になるように編んで張られているので,ガット面にはゲージ径の大きさそのままの十分な突起がすでに形成されており(図b), ゲージ径の10分の1にも満たない突起形状がボールを捕らえた時の摩擦力に支配的であるというのは考えにくいですね。
( ストリング素線の0.1 ㎜ 程度の直径の違いが、ストリング面の粗さに影響するとは考えにくいですね!)
(参考文献)
・ 川副嘉彦・中川慎理、テニスにおけるスピンガットの変革とラケット性能についての考察、
シンポジウム: スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2010、 pp. 147-152.

(参考資料)
テニスラケットの科学(234)
:スピンとストリング(32) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション
:(張り上がり)面圧と(インパクトにおける)面圧―まとめ
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-234/

(参考資料)
・テニスラケットの科学(225)
:スピンとストリング(23) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション
:テンションを変えてもボールとストリングの反発係数が変わらないのはなぜか? (その3:まとめ)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-225/

・テニスラケットの科学(208)
:スピンとストリング(6)
: プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション
:ストリンガーはラケットという「弦楽器」の性能を熟知している「調律師」(名張人)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-208/