テニスラケットの科学(582)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる➂
:打球速度とスピンが生まれるインパクトの原理
:(インパクトにおける)飛来するボール速度、ラケット・ヘッド速度、ラケット面の角度、反発力係数と打球速度、スピン量の関係

● 打球後のボールの挙動はどのように決まるのか?
・ ボールをラケットで打ったときの打球速度、スピン量(回転角速度)、接触時間などのすべてが、インパクトの瞬間に決まります。
・ 図1は、高速度カメラで実打を撮影した映像の連続写真をフェデラー選手をモデルとしてイラスト化したものです。
 この例は、フォアハンド・トップスピンのインパクト後の打球速度、方向、スピン量(回転角速度)がどのように発現するかを示したものです。
・ インパクト直前と直後のボールの挙動の変化には、ボール・ラケット間の反発特性や摩擦特性など、複雑な要素が関係するので想像するのが難しいのですが、 これは実際にボールを打ったときの高速度カメラで撮影した映像の連続写真に基づいています。
・ 飛んでくるボール速度、ラケット・ヘッド速度、ラケット面の角度、反発力係数に対して、インパクトの瞬間に(1000分の3~5秒経過した後)、打球速度、スピン量がどのように決まるのかについて理解するためのベクトル図の概略も示していますが、詳しくは図2、図3で説明させていただきます。

図―1

図―1

 (注釈:)ベクトル図の矢印は、インパクトの直前(ボールがストリング面に接触した瞬間)、直後(ボールがストリング面を離れた瞬間)の速度や回転(スピン)の「大きさ」と「方向」を意味しています。
 速度は、大きさだけではなく、方向もとても重要です。
・ ボールはA➡B➡Cと飛んできて、Eでラケットにぶつかり、ラケットもA➡B➡Cとスイングされて、Eでボールにぶつかっています。
 ただし、緑の➡(スイングによるラケット・ヘッド速度)はD-E間を動く速さ、インパクトの瞬間の方向です。
 Eがインパクト・ポイントで、この場合は、ラケット面はほぼ垂直になっています。
 インパクト後のボールの速度と方向と回転量(トップスピン:正、アンダースピン:負)は、力学的には、飛来するインパクト直前のボールの速度と方向と回転量(回転角速度)に対して、
 「インパクトにおける
 ①スイングの速度
 ②スイングの方向
 ③ ラケット面の傾き」
という三つの要素によって決まります。
 さらに、これにラケットの反発性能(エネルギ損失、スイートスポット、先端側、根元側によって大きく異なる)やストリングのスピン性能が関係してきます。

 ● インパクト図の説明(図2)

図―2

図―2

・図2は、図1右を拡大したものです。
・ 飛来するボール速度にマイナスの符号がついているのは、打球方向と逆方向だからです。
・ ラケットヘッドが速度を持っているので、飛来するボール速度とヘッド速度を足した値が衝突速度になって、ラケット面に衝突します。
 飛来するボール速度とヘッド速度は方向が異なるので、ベクトル的な足し算(平行四辺形の対角線)で、ラケット面への相対的な衝突速度は長い青のベクトルになります。
・ 長い青のベクトルが入射速度(入射角)になってストリング面に衝突し、図の反射角方向に跳ね返ります。
 スピン量が大きいほど、反射角(ピンク色)は小さくなります。
・ ここで、ラケット面に対して、反射速度の垂直成分と入射速度の垂直成分の比が「反発力係数e」です。
 この図では、反発力係数eの値は 0.2程度になっており、ストリング面のトップ側でインパクトしたことが推測されます。
 *ラケット面の打球位置により、0.2~0.6程度、スイートスポット(ラケット面のほぼ中心)では、0.4程度です。
・ スイングによるインパクトでのヘッド速度(緑の矢印)とボールの反発速度(ピンクの矢印)とのベクトル和が打球速度(赤の矢印)になります。
・ スピン量が増大するほど、反発速度の割合は小さくなり、打球方向のボール速度は低減します。
  この例では、反発力係数eの値が小さいので、反発速度(跳ね返り速度)が小さいですが、スイングによるヘッド速度が先端側での打撃により速いので、(先端側での打撃により)反発力係数が低くても、結果としての打球速度はそれほど低減しません。
・ ボールとラケット面が正面衝突し、スイング速度と打球方向が一致する場合は、打球速度は最大、スピンはゼロですが、ボールはコート内に入らないでしょう!
●「スイング(ヘッド)速度(速さと方向)」と「飛んでくるボールの速度(速さと方向)」が同じとした場合

:インパクトにおけるラケット面の傾き(角度)による「トップスピン量」と「打球速度(速さと方向)」の関係

図―3

図―3

 図3は、インパクトの瞬間(直前)の条件として、ラケット面の傾きだけを変えた場合に、打球速度とスピン量がどうなるかについて示したものです。
 a はラケット面が前に少し傾いている場合、b はラケット面が後ろに少し傾いている場合です。
・スイング速度と打球速度の方向のなす角度が大きいほど、
スピン量の割合が打球速度の割合より大きく、
 スイング速度と打球速度の方向のなす角度が小さいほど、
スピン量の割合が打球速度の割合より小さく、厚い当たり、ボールを潰して打つということになり、

 トップスピンの量は、ラケット面が前に傾く方(a)が多く、
 打球速度はラケット面が後ろに傾く方(b)が大きい
ことを示しています。
 (続く)
・反発の良いスイートスポットで打撃した場合のスピン量と打球速度がどうなるか?も紹介させていただく予定です。
・ストリングのスピン性能が低減したら、なぜ打球速度が増すのか?も紹介させていただく予定です。 
(参考資料)
・テニスラケットの科学(200)
:スピンの実際(まとめ)
:打球速度、方向、スピン量(回転角速度)の生成原理 
https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-200/

・テニスラケットの科学(574)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる①
:打球速度とスピンを生むインパクトの構成要素
https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-574/

・テニスラケットの科学(576)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる②
:打球速度とスピンが生まれるインパクトの原理
:ベクトル図(大きさと方向)による解説
● インパクト図の説明
https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-576/