テニスラケットの科学(610)
:打球感のメカニズム
:インパクトの衝撃はどのように手に伝わるか➂

● 衝撃と衝撃反力
:ストリング面上の打球点の位置とインパクトの衝撃の大きさ
(続き) 

・ 図1は、例として、標準的サイズのラケット EX-Ⅱ(ストリングを張って360g) におけるインパクトの衝撃力(ボールとラケットの間に作用する力)を示しています。
・ 衝撃の大きさは、図の面積(色の濃い部分の面積)で表され、これが大きいほどボールを跳ね返すパワーが大きく, 速いボールが飛んでいくことになります。
・ インパクトの衝撃はボールを跳ね返す力となり、この衝撃が大きいほど、ボールは速い速度で跳ね返ることになります。
 インパクトの衝撃の大きさは、ボールとラケットの衝突速度の大きさでほとんど決まりますが、ラケットの種類や打球面の打点の位置、グリップの握りの位置の違いによっても変わってきます。
・ 一般に反発力の大きいラケットほどインパクトの衝撃も大きくなります。
 ただし、後に説明しますが、ラケット面に作用する衝撃と、ラケットを支えた手の位置に作用する衝撃反力の大きさとは別のものです。
 ラケット面の衝撃が大きくても、手に衝撃をまったく感じないようなグリップ位置も存在します。
 あるいは、ひとつの決まったグリップ位置に対して、衝撃をまったく感じさせないラケット面上の打撃点というのも存在します。
 いわゆる「打撃(衝撃)の中心」と言われるものがそれです。

図―1

・ 図2は、 代表的な6種類のラケット(フェイス面積:100~120平方インチ、ストリングを張った重量:290g~370g)について、 ボールが30m/秒(時速108km)でラケットに衝突したときのラケット面上の「インパクトの衝撃」を計算した例です。 横軸はストリング面上の打撃点であり、グリップ・エンドからの距離を示しています。

図―2

・ グリップ・エンドから打球面の中心位置までの距離は、ラケットのサイズがかなり異なっていてもラケット全長をわずかに変えることで500mmから510mmの間に収められており、平均すると約505mm程度です。 縦軸は衝撃の大きさ(力積:図1の面積に相当)を示します。 衝突速度は30m/秒(時速108km)であり、グリップ支点(手の握りの中心位置とする)はグリップ・エンドから70mmです。

・ これを見ると、衝突速度が一定の場合、インパクトの衝撃は打球面の根元側ほど大きく、先端側ほど小さいことがわかります。

・ インパクトの衝撃の大きいラケットは、デカラケ、超デカラケ(超軽量トップヘビー)、超デカラケ(従来型バランス)、 厚ラケ、超軽量トップヘビー、ノーマルの順になっています。 この順番は、ラケット面の中心付近で打撃した場合の反発力の大きさの順番とも一致しています。
(続く)

(参考文献)
・Yoshihiko KAWAZOE,
Mechanism of Tennis Racket Performance in terms of Feel,
Theoretical and Applied Mechanics, Vol.49 (2000), pp.11-19
(参考資料)
・川副嘉彦、
ラケットの科学II-⑤、
月刊テニスジャーナル,12巻12号(1993年12月号), pp. 78-83.