テニスラケットの科学(744)
:テニスラケットの科学(721)の補足20
:「テニスを科学する:テニスボールとラケットの衝突」
:ストリング面の縦糸・横糸の役割
:プロの選手では非常に珍しく?縦(メイン)にナチュラル、横(クロス)にポリエステルに張ったフェデラー選手のストリング性能 (インパクトにおけるストリング面の挙動と打球の予測)

(備忘録)
 慶應義塾大学 総合政策・環境情報学部講義「スポーツエンジニアリング
(ゲストスピーカー 川副嘉彦) 2024年11月8日(金)、9時25分~10時55分

:「テニスを科学する:テニスボールとラケットの衝突」
・ ストリング性能に関する記事には、昔から現在まで、インパクトで起こっている物理現象とは無関係に、さまざまな俗論・憶説・推測・通説(?)*が多く見られます.
・ ストリング面は、縦糸と横糸で編まれており、ラケット・フレームあるいはストリング面の構造上、ストリングの縦糸と横糸を同じテンション(引張荷重)で張っても、 縦糸を横糸よりも先に張るので、張り上がった横糸の実際のテンションは、ストリング間の摩擦などのため、縦糸のテンションよりも低くなります.
 したがって、力学的には、縦糸は強いバネ、横糸は弱いバネということになり、強いバネと弱いバネで編まれたストリング面は、強い縦糸のバネと弱い横糸のバネの並列ばねになります.
 並列ばねの強さは、強いバネの特性で主に決まり、弱いバネは補助的な役割になります.
 これが、縦糸をメイン(主役)、横糸をクロスと呼ぶ理由です.
 したがって、一般に、打撃性能としては、縦も横もポリエステル・ストリングがベストです.
・ フェデラー選手のように、縦にナチュラル天然ガット、横にポリエステル・ストリングを張る場合は、打撃性能はナチュラル・ガットの性能で主に決まります.
・ 反発力はポリエステルもナチュラル・ガットも違いがありませんが、 スピン性能はポリエステルの方がナチュラル・ガットより優れています.
 すなわち、打撃性能としては、ポリエステルがナチュラルを凌駕しているということです.
・  縦にポリエステル、横にナチュラルを張っても、横に張った高価なナチュラルの役目はほとんどない(意味がない)ということになりますが、 フェデラー選手は、さすが(天才)です!
 フェデラー選手の縦にナチュラル、横にポリエステルのハイブリットは、
 打撃用具としては縦・横ともポリエステルに劣りますが、縦(メイン)のナチュラルは、インパクト後のナチュラル・天然ガットの振動の音色を楽しむことができます.
画像1:スリング素材の違いは反発係数に影響しない

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画像2:スピン性能は、ポリエステルが最高、次にナチュラル天然ガット、次がナイロン

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画像3:スピン性能は、ポリエステルが最高、次にナチュラル天然ガット、次がナイロン

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画像4:打球速度とスピンの生成原理(例5) ストリング(ナチュラル、ナイロン、ポリエステル)の反発力は同じなのに、ボールの飛びが違うのはなぜか?
(Natural、Nylon、Polyesterの打球速度の速さ、方向を予測)

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: この結果から、ポリエステルのスピン性能を生かして、 相手の足元で高く跳ね上がって打ちにくい、いわゆるエッグボールと言われるようなトップスピンのボールを打つには、トップスピンによるマグナス効果によりボールは下方に曲がるので、スイング軌道を高くして深いボールを打てばよいことがわかります.

(追記:俗にいう「エッグ・ボール」のメカニズム)
 特に、スイングを速くしてインパクトでのラケット・ヘッド速度を速くすると、 スピンの良くかかった速い打球の軌道が高くなり(打球の角度がヘッド速度の角度に近づいて大きくなり)、スピン回転によって生ずるマグナス効果により、軌道の前半は、 揚力は斜め前方下に向き、水平成分は速度を加速するように働き、鉛直成分は常に下を向き、重力と一緒になって飛距離を短くする方に働く.
 軌道の後半は、揚力は斜め後方下に向き、水平成分は速度を減速するように働き、鉛直成分は常に下を向き、重力と一緒になって飛距離を短くする方に働く.
 したがって、「エッグ・ボール」として知られているように、軌道の頂点から急激にボールが落ちて、相手コート深くにバウンドし、大きく弾むので打ちにくいボールになります.
 その弾道が卵の半分の形のようになることから、「エッグボール」と名付けられたそうです.

*(文献)
・テニスラケットのストリング性能論1
(パワー,コントロール,打球感と性能の寿命に関する考察)、
川副 嘉彦,
シンポジウム: スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2013、 pp.”313-1″-“313-10”.
https://kawazoe-lab.com/research/string-performance-theory1/

・テニスラケットのストリング性能論2
 (ボールコントロールとスピンにおよぼす諸因子の影響)
川副 嘉彦,
シンポジウム: スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2013, pp.”314-1″-“314-10”.
https://kawazoe-lab.com/research/string-performance-theory2/

・ なぜポリ系ストリングが天然ガットとナイロンを凌駕したのか
 (テニスラケットの新しいストリング性能論とプレースタイル変革の視点から)
 川副嘉彦
 テニスの科学(日本テニス学会機関誌)、第22巻、2014, pp. 86-87.
https://kawazoe-lab.com/research/porikei-string/ 

・ 世界のトッププロはなぜポリエステル・ガットを使うのか
 (ストリング潤滑ラケットとスパゲッティ・ラケットの超高速ビデオ画像解析からの考察)
 川副嘉彦、
 テニスの科学(日本テニス学会機関誌)、第14巻(2006年) pp. 18-19.
https://kawazoe-lab.com/research/polyestel_gat/ 

(参考資料)
*例えば、
*Tennis Classic 編集部
フェデラーのラケット仕様を紹介! 「フェデラー張りって何 !?」「使用ガット・ストリング/テンション」「ラケットのこだわり」
https://tennisclassic.jp/article/detail/651 

・テニスラケットの科学(240)
:スピンとストリング(38) : ストリング別のスピン結果 :スピンがかかりやすいストリング素材 :ストリング素材は硬いほどスピンがかかりやすい。ポリエステルが主流
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-240/ 

・テニスラケットの科学(590)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる⑧
:打球速度とスピンの生成原理(例5) ストリング(ナチュラル、ナイロン、ポリエステル)の反発力は同じなのに、ボールの飛びが違うのはなぜか?
(Natural、Nylon、Polyesterの打球速度の速さ、方向を予測)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-590/ 

・テニスラケットの科学(661)
: フェデラー選手の弦楽器としてのテニスラケット
: 横糸ポリエステル上の縦糸ナチュラルを滑らせて弾く
: スピン量を抑えて音色を楽しむ?
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-661/