テニスラケットの科学(351)
:「日本ラケット工業協同組合」の ”テニスストリングの張替タイミングはいつ?” に「異見あり!」(1)

● ToalsonのOfficial Online Site
https://store.toalson-sports.com/blog/2021/12/22/164823
 やYONEXほかのメーカーや販売店のホームページを見てビックリです!
 次のような記述がありました。
 ” この度、日本ラケット工業協同組合では、第三者機関による試験検証を行い、ラケットストリングは張り上げ後、一度も使用していなくとも弾力性を失うことが実証されました。
 この弾力性を失ったコンディションでは、本来持っているパフォーマンスが低下するだけではなく手首や肘を痛める原因にもなり得ます。
 そこで、日本ラケット工業協同組合では張替を推奨するポスターを作製いたしました。
ダウンロード後、プリントアウトして掲示いただき、張替の推奨にお役立てください。

● 以下は、ポスターの記述です。
” Q: テニスストリングの張り替えタイミングはいつ?
 A: 3ヶ月以内
 テニスストリングの張替時期に関して一般的に約3ヶ月と言われていますが、この度日本ラケット工業協同組合にて客観的な実験にて検証を行いました。その結果一度も使用していなくとも早いものでは半月、最長でも3カ月にてストリングが硬くなり、弾力性を失うことが実証されました。この弾力性を失ったコンディションでは本来持っているパフォーマンスが低下するだけではなく、打球時の振動が多く発生し手首や肘を痛める原因にもなり得ます。最長3カ月に1度の張替を推奨します。
実験結果のグラフ(虫眼鏡でも見にくい)があります。
横軸は張上げからの経過時間、縦軸はストリングの硬さ(弾性率)の変化率[%]です。

● 科学的・客観的な説明であるためには、データをすべて公開して議論を経る必要があります。
 個々の問題点についてはあらためて「異見」がありますが、ここでは、元・シドニー大学准教授のロッド・クロス(物理学)と元・米国ラケット・ストリンガー協会の機関誌・編集長だったクロフォード・リンゼイ(高分子化学)の共著による教科書「Technical Tennis」(常盤泰輔訳)の87頁:テンションの低下と「寿命」の一部を紹介します。
” テンションが低下するとストリングは軟らかくなる。
 ストリングの変化はこれ以外にない。
 いかなる定量的な意味においてもパワーや弾力性を失うことはないし、「寿命」がつきることもない。
 単にストリングは硬さを失うだけだが、それによってプレーヤーは「違い」を感じる。
 本来ストリングというものは弾力性を失うことはない。
 ストリングは、いつでも100%の弾力性を有している。
 すなわちストリングは毎回、衝突前の長さに戻る。
 そうでなかったら、ストリング面の中心がたるみだすはずである。
 ストリングは伸縮性を失うこともない。
 技術的にいえば、弾力性と伸縮性は同一である。
 しかし一般的な言葉の使われ方として、伸縮性は、ストリングがどれだけ伸びるかという意味をさすことが多い。
 何年間も使い古されたストリングは、新品の状態よりも伸びる量が小さい。
 しかし、それにもかかわらず、ボールと衝突して吸収した弾性エネルギーの95%を再放出する。
 同様に、ストリングテンションが低下した場合、あるいは「ストリングが死んだ」とプレーヤがいう場合でも、その言葉が示唆するように、ストリングのパワーが低下して再放出するエネルギーが減少することはない。
 ストリングのパワーは同じである(もちろん大きくは、ならない)。
(追記)
図1:日本ラケット工業協同組合提供のデータの見方・解釈に異見あり!:川副研究室

図―1


図2:日本ラケット工業協同組合提供のデータの科学的な見方:川副研究室

図―2


(参考資料)
・テニスラケットの科学(356) :「日本ラケット工業協同組合」の”テニスストリングの張替タイミングはいつ?”に「異見あり!」(6) :張り替えタイミング・私見
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-356/